■狙われるウクライナの天然資源

 そして、気候変動の影響、とりわけ干ばつなどを考えたときにロシアにとってますます重要になるのが、ウクライナ産の穀物に他ならない。周知のように、ウクライナは「ヨーロッパの穀倉地帯」と呼ばれ、ロシアと並ぶ小麦の輸出大国である。その量は、ロシアと合わせれば、世界の小麦の輸出市場の29%を占めるほどだ。トウモロコシの輸出も多い。中国もウクライナから最も多くトウモロコシを輸入している。

 今後、気候変動によって世界的な干ばつや熱波が深刻化し、食糧危機のリスクが増大していくなかで、ウクライナの豊かな土壌がますます重要性を増していくのは疑いようがない。ロシア国民の胃袋を満たすだけではない。ウクライナの穀物輸出に依存する中国はもちろん、中東やアフリカにも、大きな影響力を持つことができる。気候変動が進めば進むほど、戦略物資としての穀物の重要性は増していく。

 さらに、ウクライナは天然資源にも恵まれている。とりわけ半導体製造に必要な、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなどの原材料ガスの主要産出国である。ネオンガスにいたっては世界の70%もの量を供給している。

 そうした資源を生かしながら、ソ連時代から宇宙分野や核開発の拠点だったウクライナは「東欧のシリコンバレー」として、ITやハイテク産業の発展に注力してきた。人口4400万人のウクライナで、IT技術者は20万人にも及び、グーグルなどの海外企業からも多くの発注を受けていたのである。ウクライナにR&Dセンターを置く企業もアマゾンからサムスンまで数多くある。1人あたりGDPでみればロシアより貧しいウクライナではあるが、科学技術の水準は非常に高いのだ。

 食糧、資源、IT。これらは、まさにロシアが気候危機に直面するなかで、のどから手が出るほど欲しいものばかりだ。その意味で、今回の戦争はNATOの東方拡大阻止という最重要課題への対応であるとともに、気候危機への適応戦略の一環なのである。

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ロシアだけに言えることではない