■ロシアを襲う気候危機

 一方、現在の「緑の資本主義」は、気候変動対策としてはまったくもって不十分であり、世紀末までの気温上昇は、パリ協定の1・5度目標を大きく上回る2・4~2・7度になると言われている。当然、そのレベルでの気候変動は、社会や生態系に極めて大きな被害をもたらすことになる。ロシアもまた例外ではない。

 プーチンは気候変動について、「ロシアが暖かくなれば毛皮のコートを着なくてよくなる、農業生産性も向上する」と冗談を述べたとされ、彼は気候変動懐疑派だという評価も散見される。また、北極海の海氷が融解すれば、北極海航路(NSR)と呼ばれる新たな航海ルートが開けるため、そこでの利権を周到に狙っているという報道もある。

 確かに、その意味では、ロシアにとって気候変動の恩恵は存在する。だが、そうした楽観的予測は一面的である。事実、ロシアへの気候変動の負の影響は極めて大きい。ロシアにおける気温上昇は世界の他地域と比べて2.8倍のペースで大きく進んでおり、その結果、永久凍土の融解が進行している。これによって起きる地盤沈下は、国土の65%を永久凍土が占めるロシアにとっては深刻な脅威だ。

 2月末に発表されたばかりの「国連の気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の第6次評価報告書(AR6。第13章)でも指摘されているように、地盤沈下によってビル、道路、空港、パイプラインにすでに大きなダメージが出ており、その対策に大規模の出費がかかるようになっている。2020年にシベリアで大量の燃料が流出する事故が発生し、周辺地域に非常事態宣言が出されたのを覚えている人もいるだろう。これも気候変動によって凍土がゆるみ、燃料貯蔵庫の柱が倒壊したせいで起きた惨事である。

 そして、今後気温上昇が3度以上になれば、永久凍土がインフラを支える力は今世紀末までにほとんどなくなる。その被害額は、2050年までに、970億ドル(約10兆円)という試算もある 。

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