インスタリムが開発した義足。一人一人の切断面にフィットし、切断箇所に応じて長さも変えられる(撮影/写真部・東川哲也)
インスタリムが開発した義足。一人一人の切断面にフィットし、切断箇所に応じて長さも変えられる(撮影/写真部・東川哲也)

「マスプロダクションは効率を求めてマニュアル化していきますから、どんどん誰でもできる仕事になっていく。人間らしく楽しく働ける場所は減っていきます。一方、ペインポイントに届くソーシャルな活動は資本主義から最も遠いところにあるので、実現するには、とてつもないエネルギーを求められます。つまりやりがいがある。マスカスタマイゼーションで“一品物”の義足を大量生産するというのは、そういうことです」

 会社設立から2年。徳島が一人で開発を始めたところから数えれば4年の歳月を費やし、インスタリムは19年、従来の10分の1以下の価格で義足を製作するシステムを完成させた。

 プロの義肢装具士の技を覚え込ませたAI(機械学習)と、自前で開発した義肢装具製作専用ソフトで一人一人の足にぴったりフィットした義足を自動設計する。それをフィリピンのラボに並べた8台の3Dプリンターで量産する。3Dプリンターも義肢専用に開発し、義足の素材も自分たちで作り出した。

コロナ禍の逆境も克服

 インスタリムが洋々たる未来にこぎ出そうとしたその矢先、世界が新型コロナウイルスに襲われる。フィリピンも主要都市がロックダウンされ、1年半以上も日本との行き来が自由にできなくなった。だが彼らはこの困難すら成長の糧にした。

 以前は現地の病院を通じて、足を失った人々に義足を届けていた。だがコロナ禍で多くの病院がコロナ専用になり、営業活動ができなくなった。インスタリムの売上高も減少した。

 このピンチで始めたのが、ネットを利用した遠隔製造・販売だ。現地の社員が患者の家に行って、切断した足の断面をスキャンする。そこからラボにデータを送り、3Dプリンターでカスタムメイドの義足を「プリントアウト」して届けるのだ。

 インスタリムのネット営業はフィリピンに定着し「今月はこの島に行きます」と告知すると、足を失った患者が列をなして待つようになった。売上高はコロナ前の数字を超えた。現在は患者の元にセンサーを送り、自分で採寸してもらう「完全非対面」のシステムも開発中だ。

 徳島はフィリピンで確立したビジネスモデルを引っ提げ、今度はインドに乗り込もうとしている。いずれは先進国でも。

「マスカスタマイゼーションの次は、途上国で発展したビジネスを先進国に持ち込むリバースイノベーションをやりたいんです」。常識を覆す徳島らしい野望である。

とくしま・ゆたか/1978年生まれ、京都府出身。43歳(撮影/写真部・東川哲也)
とくしま・ゆたか/1978年生まれ、京都府出身。43歳(撮影/写真部・東川哲也)

(敬称略)(ジャーナリスト・大西康之)

AERA 2021年11月22日号より抜粋