藤井聡太三冠(c)朝日新聞社
藤井聡太三冠(c)朝日新聞社

 藤井聡太が竜王戦七番勝負第2局で、不利な後手番にもかかわらず難敵・豊島将之竜王に完勝した。その勢いのまま次戦の第3局も勝利して竜王奪取が見えてきたほか、史上最高勝率の更新も視野に入ってきた。AERA 2021年11月8日号で取り上げた。

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 筆者の見るところ、この七番勝負の下馬評は藤井ノリの声が圧倒的だった。史上最年少四冠を見たいという以上に、タイトル二冠を堅持し、さらに三冠目も獲得した、今年度前半の藤井の圧倒的な戦いぶりを目の当たりにすれば、当然かもしれない。

 ちょうど1年前。豊島と藤井の対戦成績は豊島6連勝。他のほとんどの棋士を圧倒している藤井にとって豊島は「天敵」「ラスボス」とも言われた。

 しかしこの1年。藤井は猛烈に巻き返した。竜王戦第2局終了時点では、豊島9勝、藤井10勝。ついに藤井が追いつき、そして追い越している。いよいよ藤井一強時代が現実のものとなりつつあると言ってもよい。

■読みがものすごく速い

 藤井はなぜこんなに強いのか? それはAI研究が大きく影響しているからなのか? 東京大学大学院で電子情報学を専攻する研究者でもある谷合廣紀四段(27)は次のように分析する。

「藤井さんがAIを使うようになったのは奨励会で三段に昇段した頃です。それ以前から詰将棋解答選手権でずっと優勝している。つまり元々、読みの速度がものすごく速くて強い。そこにAI研究による局面の評価の正確さが加わったことによって、より強くなった。もちろんAIの影響は受けている。しかしAIがなかったとしても、藤井さんは同じような活躍をされていたんじゃないかなと思います」

AERA 2021年11月8日号より
AERA 2021年11月8日号より

 藤井自身が興味を示さない成績記録の話をすれば、10月29日現在、今年度勝率は8割5分4厘(35勝6敗)だ。藤井はこれまで4年連続で8割を超えている。見る側の感覚が麻痺してしまって、藤井ならば当然とも思えてきそうだが、過去にそれほどまでに勝つ棋士はいなかった。そして5年目の今年度も8割を超える可能性は高いと同時に、中原誠十六世名人(74)が1967年度、五段当時にマークした不滅の史上最高勝率8割5分5厘(47勝8敗)を更新する可能性さえも残されている。

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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