シッティングバレーボール男子準決勝で、身長246センチのメヘルザドセラクジャニ(中央)を擁するイランがボスニア・ヘルツェゴビナを破った(写真:gettyimages)
シッティングバレーボール男子準決勝で、身長246センチのメヘルザドセラクジャニ(中央)を擁するイランがボスニア・ヘルツェゴビナを破った(写真:gettyimages)

 9月5日に閉幕したパラリンピック。多彩なパラアスリートたちの活躍が注目されたが、一方で経済的な理由から出場をあきらめる選手がいるなど、実は各国の経済格差もにじむ。そして日本にも、パラスポーツをめぐる課題は少なくない。AERA 2021年9月13日号で取材した。

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 2大会ぶりの金メダルや、リオ大会の24個を上回るメダルを獲得した日本も課題が少なくない。

 子どもたちに会場で直接競技を見てもらう「学校連携観戦」について、東京都の小池百合子知事は開幕4日前の8月20日、定例会見でこう話した。

「五輪とまた違った意味でパラリンピアンのパフォーマンスを実際に見て頂くことは、極めて教育的価値が高い」

 だが、脳性まひの娘が特別支援学校に通う女性(45)はこう心配する。

「多くの子どもが障害を理由に保育園や幼稚園で受け入れを拒否され、特別支援学校や支援学級で学んでいる。日常では分離されているのに、パラリンピックに出場するごく一部の障害者だけを見て『障害があっても努力で乗り越えられる』と思われてしまうと、障害の重い娘は余計に生きづらくなってしまう」

 自閉症で重度の知的な遅れがある娘(13)を持つ東京都世田谷区の会社員女性(48)もパラリンピックに疎外感を抱いた一人だ。

「出場しているのは、健常者が思い描くわかりやすい障害者ばかり。娘のような重度の知的障害者や精神障害者は出られず、別世界です」

■1人では練習できない

 パラリンピックが映し出した世界は障害者のごく一部にすぎない。代表選手たちは努力や工夫を積み重ねて晴れ舞台に立ったが、その陰では環境が整わず、涙をのんだ選手も少なくない。特に障害の重い選手は日々の練習も1人では難しい。ボッチャの田中恵子(39)のアシスタントを務めた母・孝子さん(65)は、以前こう言っていた。

「(障害の比較的軽い)手投げの選手はボールさえあれば練習できるけど、重いクラスは投げるときにランプ(スロープ)が必要だし、アシスタントも必要。ボッチャが上手な選手でもアシスタントが見つからなくて、競技をあきらめた選手がたくさんいます」

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