■国立科学博物館で見たタルボサウルスに一目ぼれ

 さらに驚くべきは、生き生きと美しい恐竜を自ら描くイラストレーターでもあることだ。骨格や皮膚の状態、筋肉の付きかたを正しくイメージしてデッサンを起こし、画像ソフトで仕上げていく。

 恐竜を紹介するには、科学的な知識に基づく“想像力”が必要だ。彼らはどんな世界で、どんなふうに生きていたのか。その場所は乾いていたのか、木漏れ日の差す森だったのか。そこにどの恐竜がいて、そこで何が起こったのか。彼らが「たしかに生きていた」息吹を感じてもらいたい。そんな思いのすべてを「恐竜科学博」にぶつけた。

 ピーター・ラーソンは言う。

「真士の素晴らしいところは豊かな想像力を持つ“アーティスト”でもある点です。事実をベースにサイエンスと人びとをつなげることができる。それは多くの研究者にはなし得ない才能で、しかも古生物学にとって命といえるほど重要なこと。彼のような人がいなければ古生物学は血の通わない“死んだ科学”になってしまうのですから」

 動かない「化石」ではなく、生きていた姿を想像してもらうこと。そして恐竜をワクワクが止まらない学びの入り口にしてもらうこと。それが田中の望みだ。田中自身がそうであったように。

 田中は1981年、東京の西エリアに生まれた。物心つく前から生き物が大好き。テレビのドキュメンタリー番組でアフリカの動物たちに釘付けになり、『シートン動物記』を読んでは泣き、アリの巣穴を何時間でもじっと見ている子どもだった。

 恐竜との出会いは6歳のときだ。母と3歳上の姉と行った上野の国立科学博物館。重厚な建物を入ってすぐのホールにそれはいた。ティラノサウルス科のタルボサウルス。衝撃はいまも鮮明だ。

「あれこそ一目ぼれでした。それまで知っていたどんな生き物よりも大きい。形も迫力も全然違う。世界を覆されるような存在感に圧倒されたのだと思います。その感覚はあの瞬間から、いまも少しも変わっていない」と田中は言う。

 図鑑を買ってもらい、恐竜漬けになった。が、ここまでは多くの子どもたちも経験するかもしれない。そこから「恐竜くん」への道のりは、ひとえに両親のおかげだと田中は言う。しかも「相当に型破りな」両親の。

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