サイエンスコミュニケーター・イラストレーター 恐竜くん 田中真士/6歳で恐竜に魅了され、世界への扉が開いた。同じ経験を次の世代につなぎたいと願う(撮影/家老芳美)
サイエンスコミュニケーター・イラストレーター 恐竜くん 田中真士/6歳で恐竜に魅了され、世界への扉が開いた。同じ経験を次の世代につなぎたいと願う
(撮影/家老芳美)
デンマークの「レゴ」社のブロックを組み合わせてオリジナルの恐竜を作る。50年以上も使い続けられる玩具を提供する企業理念に「子どもと真剣に向き合う」シンパシーを感じている(撮影/家老芳美)
デンマークの「レゴ」社のブロックを組み合わせてオリジナルの恐竜を作る。50年以上も使い続けられる玩具を提供する企業理念に「子どもと真剣に向き合う」シンパシーを感じている(撮影/家老芳美)

 サイエンスコミュニケーター・イラストレーター、恐竜くん・田中真士。6歳で恐竜と出会い、一目ぼれした。そこからは恐竜漬けの日々。16歳でカナダに留学し、大学で恐竜について学んだ。このまま研究者になりたいのか。そんな思いが胸に湧いたとき、恐竜博の館内ツアーを任され、子どもをアテンドした。心は決まった。サイエンスコミュニケーターとして、恐竜を通じて子どもたちに、人生で大切なことを伝えよう、と。

【写真】デンマークの「レゴ」社のブロックを組み合わせてオリジナルの恐竜を作る

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 ぞわっと、鳥肌が立った。目の前にあるのは、巨大な角を持つ恐竜・トリケラトプス「レイン」。しかも「奇跡」と言われる本物の全身骨格の化石だ。間近に見る茶褐色の表面は、ひびや傷を持ちながらも予想外になめらかで美しい。「まさか本当に来てくれるなんて。いまだに実感がわかないです」──そう言いながら「恐竜(きょうりゅう)くん」こと田中真士(たなかまさし)(39)は愛(いと)おしそうに、レインを見つめた。

 横浜市の「パシフィコ横浜」で開催中の「Dino Science 恐竜科学博」。その目玉としてレインはアメリカ・ヒューストン自然科学博物館から初めて海を渡り、日本へとやってきた。レインを導いた人物こそが田中だ。カナダ・アルバータ大学で学んだ恐竜のスペシャリストとして本展の企画・監修を3年かけて練り上げてきた。

 トレードマークはテンガロンハットにデニムシャツ。ひょろりとした痩身(そうしん)と笑顔が人目をひくが、決して押しの強い印象はない。だが恐竜について話しだしたら、もう止まらない。

「専門知識を生かして、わかりやすく面白く」をモットーに、数々の恐竜展やトークショーで子どもや大人を魅了してきた。キャッチーな名前は、楽しくサイエンスに触れてもらいたい、との願いから「さかなクン」をイメージして名付けた。ちなみに彼の事務所から承諾ももらっている。

 世界中の最新研究や論文にアクセスし、展示の解説や本も執筆する。グローバルなコネクションを生かして化石や骨格標本の貸し出しや交渉も自ら行う。レインの来日がかなったのも、13歳で出会ったアメリカ・ブラックヒルズ地質学研究所(BHI)所長ピーター・ラーソン(69)との長年の親交と信頼があったからにほかならない。

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