親の過干渉や、親の子どもに対する「自己責任」論の使い方が生々しい(撮影/小黒冴夏)
親の過干渉や、親の子どもに対する「自己責任」論の使い方が生々しい(撮影/小黒冴夏)

「死にたい」「消えたい」という小・中学生の声が、チャット相談「あなたのいばしょ」に寄せられている。子どもたちが自己否定の無限ループにとらわれる背景には、家庭にまで蔓延する懲罰的な「自己責任」論がある。AERA 2021年7月5日号から。

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「あなたのいばしょ」に相談がある時間のピークは、午後10時から午前3時頃だ。時差を利用して対応する海外在住の日本人相談員も多い。今年1月から相談員を始めた、米国在住の女性(52)は、初めて担当したある中学生が印象に残っていると話す。

「学校は不登校でも、塾には毎日通わされているようでした。精神科で睡眠導入剤を処方されて服用しているがなかなか眠れない、と。最大の悩みは、自分なりに頑張っているつもりなのに母親が全然認めてくれないこと。二言目には『努力が足りない』と言われると、つらそうでしたね」

 彼女はその頑張りを肯定し、「つらい気持ちはよくわかります」と共感するように努めた。だが、その子の態度は妙に大人びてもいたと続けた。

「たとえば、『申し訳ありません、もう制限時間の40分ですね』とか、『おかげさまで、ずいぶん楽になりました』と、とても丁寧にお礼を言われて、本当に中学生かな?と戸惑いました」

 在米26年目の彼女は、日本語学校で未就学児童の教育を担当中。米国人と日本人の自己責任観の違いを語る。

「米国人は失敗自体を割と前向きに受け止め、解決策を見つけ出そうとする傾向があります。一方の日本人は失敗したら、『自分の責任だ』と、必要以上に考えすぎる傾向が強いかもしれません。生真面目で我慢強いと言えば良く聞こえますが、米国人から見れば、『なぜ、そこまで一人で責任を背負いこむのか?』と理解できないはずです」

 だが、「自己責任」が持つ意味は今、確実に変容している。ドイツ生まれで、米国で活動中の政治学者ヤシャ・モンクは著書『自己責任の時代』(2017年刊)で、以前より懲罰的に、つまりは「自業自得」に近いものとして、実生活でも、思想理念の世界でも使われていることに警鐘を鳴らした。

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