ママ友たちの視線も怖くなり、行きつけのスーパーや通学路でも人目を避けるようになったという。

 家庭が子どもの弱音を受け止められず、そこにも「自己責任」がそびえたつ。逃げ場がない現実があらわになる。

「家庭が感情を押し殺し、取り繕う場所になりつつある。だから、『あなたのいばしょ』が、子どもたちにとって家庭でも学校でもない、第3の居場所として機能しているんでしょう」(那須教授)

 では、親は子どもとどう向き合えばいいのか。慶應義塾大学4年で、「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星(こうき)さん(22)は言う。

「家庭でも『受容・共感・肯定・承認』の傾聴を実践することが有効だと思います。子どもの話に口をはさまず、まずは全部を受け止めることで、親子の会話が増えたという相談員もいます」

 那須教授は傾聴の効用は認めつつも、親子が真面目になりすぎて余裕を失うと、閉塞感がさらに増すと危ぶむ。

「子どもが『学校に行きたくない』と言い出したら、親は途方に暮れて当然です。しかし学校に行くにせよ、行かないにせよ、多くの親は早急に『正解』を子どもに示さなければ、と考えがちです。むしろ親は途方に暮れる姿をありのまま子どもに見せて、“立派な大人”であろうとすることを一度やめてみたらどうでしょうか。すると、子どもも時には礼儀正しくなくてもいいし、ありのままでいていいんだと、気づくきっかけになるかもしれません」

 小・中学生の「死にたい」「消えたい」などの言葉の裏に潜む、「生きたい」という声が聞こえるだろうか。(ルポライター・荒川龍)

AERA 2021年7月5日号より抜粋