子ども一人ひとりの個性を尊重し、自律と共生を掲げるイエナプラン教育。公立校として初めて取り入れたのが福山市立常石小学校だ。「義務教育」を特集したAERA 2021年6月21日号は、導入背景や効果などを取材した。
【写真】常石小学校では筆算のやり方について思い思いに考えを伝えあう
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広島県福山市では、現在の常石(つねいし)小学校を改編し、22年にイエナプラン教育の実践校「常石ともに学園」を開校する。公立校としては全国初の試みだ。
20、21年度は新設校への移行期間に位置づけられ、現在は1~3年生の全てと、4~6年生の一部の教育活動を異年齢で行っている。正式開校前にもかかわらず、注目度は高い。移住を検討する家族も多く、21年度の新1年生入学者23人のうち、5人は市外からの移住者だった。
甲斐和子校長はイエナプラン教育について、こう語る。
「これまで私たちは個性を育む教育を大切に考えながらも、『この学年はこれをやる』『ここまでは教える』という意識をなかなか拭(ぬぐ)い去れずにいたように思います。でも、イエナプランでは一人ひとり違うことが当たり前に、ごく自然にそこに存在する。それぞれの成長を、私たちも一緒に成長しながら見守っていける教育だと感じます」
■異年齢での授業で効果
イエナプランだからこその学びの深まりも、日常的に起こっているという。5月末、甲斐校長が参加した「ブロックアワー」でも、そんな瞬間があった。
2年生のある児童が計算問題を解いていたが、習ったばかりの筆算のやり方を間違えていた。教員がそれに着目し、どうすればいいか、2、3年生に問いかける。3年生が2年生に自分の知識を伝えたり、2年生が疑問を口にしたり、思い思いに発言する。やがて、筆算に必要な桁の繰り上がりが話題になった。すると、3年生を中心により大きな桁の数え方を知りたがる声が上がる。
「学ぶ必要がある内容ではない『京』や『垓』といった単位まで自分たちで興味を持ち、学び始めた。そして、その後の単元テストでは、きっかけになった2年生の子も筆算の問題をスラスラ解いていました。皆が様々なことを言う中で、どれかが腑(ふ)に落ちたんだと思います」