芸能プロダクションが運営する高校が相次いで開校している。エンタメの主戦場がテレビや舞台といった従来の場からネットへと移りゆく今、「芸能事務所×高校」の動きが意味するものとは。AERA 2021年6月21日号で取材した。
【図】エイベックスやLDHも。高校と提携する芸能事務所はこちら
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新型コロナウイルスの第4波が本格化した今年4月、大手芸能事務所ワタナベエンターテインメントが運営する高校が開校した。ただし、校舎はどこにもない。すべての授業をネットで行う完全リモートの「ワタナベNオンラインハイスクール(WNOH)」だ。
静岡県藤枝市の多々良岳(たたら がく)さん(16)は週5日、自宅のパソコン前に“登校”している。この日の授業は「魅力発見プログラム」。講師を務めるのは、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのショー演出をはじめ、アーティストのライブやミュージカルの演出家として活躍する金谷かほりさん(60)だ。
オンラインでつながった十数人の生徒たちに、金谷さんが語りかけた。
「よく“自分探しの旅”に出る人っているじゃない? でも、コロナ禍の今は旅に出られないし、そもそも旅に出る必要なんてないと私は思う。自分の魅力は自分が一番よく知っているはずだから。それをみんなで一緒に見つけていきましょう」
■芸能界で培った独自授業で生徒の魅力を引き出す
そんなメッセージで幕を開けた授業の最初の課題は、クラスメートに対する自己紹介。金谷さんからは「憧れている人の話を必ず入れて」との指示が飛ぶ。歌手志望の女子生徒は「セリーヌ・ディオン。力強さと優しさが同居する歌声に惹(ひ)かれる」と話し、別の女子生徒は「声優の木村良平さん。人を感動させられる声優になりたい」と続く。次に指名された多々良さんは少し緊張した表情で「僕は俳優志望ですが、ウルフルズに心を救われたので、そういう存在になりたい」と語った。
授業を振り返った多々良さんは、「自分が魅力的だと感じる人は、自分と近い感覚を持っている人だと先生がおっしゃったのがすごく印象に残っています。憧れの人について語るみんなの姿にも刺激を受けました」という。
「魅力発見プログラム」はWNOHの独自カリキュラムで、ウリの一つだ。10代には自分で気づいていない魅力もあれば、自分だけがわかっている個性もある。それらをクラスメートと一緒に深掘りし、発見したものを講師と共に伸ばしていく。ほかにも「演技」「ダンス」「モデル」「ヴォーカル」の計五つのカリキュラムを用意する。