■決勝はターンもピタリ

 この修正がレース全体にどう生きたかについて、日本水泳連盟科学委員で日本大学文理学部教授の野口智博さんが解説する。

「(3日の)予選でスタート後6回、ターン後4回だった水中ドルフィンキックを、(3日の)準決勝、決勝ではスタート後8回、ターン後6回に増やしていました。浮き上がりの初速も速く、前半50メートルでは予選より決勝が1かき少なく、後半は準決勝より決勝が1かき少なく泳げていました。特に決勝では、ターンのタイミングが合ったことも後半の初速を上げることにつながりました」

 そもそも泳ぎはすぐ戻るものなのだろうか。池江は1年以上もプールから離れていた。そんな疑問に野口さんはこう答える。

「復帰して初めてプールに入ったときの映像を見て驚きました。水を軽くかいていたのですが、基本の動きができていました。(水中で手を横に広げて推力をつくるときに)腕を45度に傾ける動きを忘れていなかったんです。子どものころ、雲梯(うんてい)で鍛えたといいますから、体に肩甲骨の動かし方なども染み付いていたのかもしれません。だから筋力は減っても泳ぎの技術は失われていなかったのでしょう」

 あとは筋力の回復次第ということかもしれない。野口さんはこんな見方をする。

「必要な筋肉をつけて体を戻していますが、これから別の体に仕上げていくかもしれません。アスリートとして体づくりを見直して、ゼロからリスタートを切れたとも考えられます。これからの飛躍が楽しみです」

 8日の女子100メートル自由形決勝でも400メートルリレーの派遣標準記録を突破して優勝した。東京五輪では進化した泳ぎが見られそうだ。(ライター・井上有紀子)

AERA 2021年4月19日号