■加齢とサルコペニア

 サルコペニア対策を40歳前後から始めることを推奨するのが、立命館大学スポーツ健康科学部の真田樹義教授だ。筋肉の「老化」は意外なほど早い。筋肉を構成する線維状の細胞「筋線維」は30代から徐々に減り始め、40歳前後を境に急激に減少することが分かっている。

「加齢とともに避けられないのがサルコペニアなのです」(真田教授)

 ただ、中年期に注意を受けやすいのは肥満だ。メタボ対策とサルコペニア対策の両立は可能か。真田教授は言う。

「いずれは誰もがメタボ対策からサルコペニア対策にシフトチェンジしなければならないときがきます。このタイミングは人によってばらばらなのです」

 タイミングが70歳の人もいれば、40歳の人もいる。ただ、サルコペニア対策に重点をおくべき年齢が低い傾向なのは女性だと真田教授は指摘する。

「30~40代でも片足で椅子から立ち上がれない人は結構いますが、やせ形の女性にその傾向が強く見られます。そうした人はダイエットより、骨密度の低下を防ぐなどフレイル予防に早めにシフトするべきです」

 一方、メタボ対策にはエンドポイントがある。75歳だ。真田教授とハワイ大学の共同研究で、75歳を超えると太っている人のほうが長生きすることが分かったのだ。

 真田教授らが75歳の人を24年にわたって追跡調査した。この過程を体形別に調べると、生存率の下降が最も顕著なのはサルコペニアの人で、次がサルコペニア肥満(筋肉が少なく、脂肪が多いタイプ)の人だった。標準体重と肥満型の人は、ほぼ同水準の高い生存率を維持した。

 真田教授は「75歳を超えると、肥満はむしろ生存率を伸ばすのにプラスに作用している」と言う。理由は、脂肪細胞の働きにある。細胞膜やホルモンは脂肪からできている。脂肪から出るシグナルは免疫系にも関与し、さまざまな病気の予防にも寄与しているのだ。

■今の自分のタイプ診断

 では今の自分は、サルコペニア対策を優先すべき「サルコペニアタイプ」なのか、肥満対策を優先すべき「メタボタイプ」なのか。それを知る手掛かりになるのが、真田教授が考案した問診チェックだ。該当項目が多いほうが現段階の自分のタイプと思えばいい。

 タイプ診断は計測でも可能だ。へその真上のおなか周りが男性なら85センチ以上、女性なら90センチ以上の人はメタボ。サルコペニアはふくらはぎの周囲径が目安になる「指輪っかテスト」。体脂肪計がある人は、自分の体についているのが脂肪か筋肉か手軽にわかるはずだ。

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