全国には約18万の医療施設がある。医療機関にアクセスしやすく、安心もあるが、その分医師や看護師は分散し、医療体制は弱くなる(撮影/写真部・小黒冴夏)
全国には約18万の医療施設がある。医療機関にアクセスしやすく、安心もあるが、その分医師や看護師は分散し、医療体制は弱くなる(撮影/写真部・小黒冴夏)

 感染が収まらず、病床はいよいよギリギリだ。日本は人口あたりの病床数が世界一でも、 医療資源が分散している。さらに感染した高齢者の行き場がない。国や自治体のリーダーシップが求められている。AERA 2021年1月25日号から。

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 新型コロナウイルスの国内感染者数が累計30万人を超えた1月13日、日本医師会の中川俊男会長は険しい表情でこう訴えた。

「すでに医療崩壊の状態になってきている。このまま感染者の増加が続くと医療崩壊から医療壊滅になってしまう恐れがある」

 11日時点の病床使用率は東京で8割、神奈川では9割を超える。東京では感染しても入院先や療養先が決まらずに調整中の患者が前週の3千人から倍増、6千人を超えた。多くは同居家族へ感染させる不安や重症化の恐怖に怯えながら、自宅や高齢者施設などで療養している。

病院多く医師は少ない

 経済協力開発機構(OECD)の2018年のデータによると、人口千人当たりの病床数は日本が13.1と突出して多く、OECD加盟国平均(4.7)の2.8倍だ。病床数は多いのに、どうして逼迫してしまうのか。

「病院数が多すぎて医療者が分散してしまっているために、医療体制の逼迫が起きてしまう」

 そう指摘するのは『医療崩壊の真実』の共著者で、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)の渡辺幸子社長だ。

 厚生労働省の医療施設調査によると、19年10月1日時点の医療施設は18万1621施設。うち「病院」は8300ある。一方、日本の人口千人あたりの医師数は2.5で、OECDの平均(3.5)と比べて少ない。日本では少ない数の医師たちが多くの病院に分散しているのだ。

 コロナ患者の受け入れは、当初は感染症指定医療機関が対応していたが、間に合わず、さまざまな病院に広がっている。渡辺さんらが第1波のときの全国の急性期病院のデータを分析したところ、コロナ患者を受け入れた341病院のうち、重症を診る集中治療専門医、救命救急専門医がいる病院が57%で、4割超の病院が集中治療の専門医体制が必ずしも十分ではない中で受け入れていたことがわかった。専門医がいても体制は十分とはいえない病院も少なくない。例えば都内には集中治療専門医がいる病院は41あるが、そのうち37%が1人しかいない。

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