「専門医や医療従事者が各病院に分散しているため、各病院が確保できるコロナ病床が限られてしまう」(渡辺さん)

 その結果、東京の病床数は約13万あるが、新型コロナ用の「確保病床数」は現在4千と3%だ。

 国は民間病院でのコロナ患者の受け入れを強く訴えるが、GHCの調べではコロナ対応医療資源の確保が可能と考えられる一般病床200床以上は民間病院の7%(469施設)、400床以上は1.5%(98施設)。

「小規模で医療資源が不十分な病院でコロナ患者を受け入れることは危険を伴う」(同)

 医療資源の分散は、医療の質の低下ももたらす。

「手薄な中で医療を提供すると質の問題もあるし、さらに病院数が多いことで病院あたりの症例数も少なくなり、医師の熟練度も養われにくい。近くに病院があることに絶対の安心感を抱いている人は多いですが、病院数の多さと医療の質はバーターの関係です」(同)

 病床逼迫の背景に「病床が空かないという問題がある」と指摘するのは、フリーランス麻酔科医の筒井冨美さん(54)だ。

「第3波では患者層が高齢化し、治療期間がこれまでより長引いていることに加え、肺炎そのものが治った後でも長期の入院で筋力が衰え、リハビリや介護が必要な状態になり、退院が難しいことも少なくない。家族も引き取らず、クラスター感染を恐れて高齢者施設や転院候補の病院も受け入れを拒む。行き場がないからベッドが空かない」

■家族が引き取り拒否

 地方なら家の広さにゆとりがあることが多く、家族が引き取ることもそれほど難しくない。深刻なのは都市部だ。マンション暮らしでは親を引き取るスペースもなく、子どもの受験などを理由に拒否するケースもある。ソーシャルワーカーが家族を説得しようとしても相手にされず、医師自らが家族に電話をかけるなど、医療現場をさらに疲弊させているという。

「出口がないから病床はあっという間に埋まってしまう。1カ月だけでも家族で面倒をみてくれて再度陰性が確認されれば、介護施設が受け入れ可能な場合もあるのに。回復後のリハビリを指定外の医療機関で受け入れる仕組みも必要。現在の病床逼迫の半分は、高齢者問題でもあると感じています」(筒井さん)

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