アルバム「ブルー・アンブレラ」のジャケット(写真提供:ソニー・ミュージック)
アルバム「ブルー・アンブレラ」のジャケット(写真提供:ソニー・ミュージック)
バート・バカラック(右)とダニエル・タシアン(写真提供:ソニー・ミュージック)
バート・バカラック(右)とダニエル・タシアン(写真提供:ソニー・ミュージック)

 今年も残すところ1カ月を切り、海外の主要音楽メディアでは、毎年恒例の年間ベスト・アルバムが発表されている。セールス状況や話題を鑑みながらその年を振り返って選出される作品の多くは、どうしても若手、中堅に集中してしまいがちだだ。それでも今年は、ボブ・ディランの「ラフ&ロウディ・ウェイズ」をベストの1枚に挙げるメディアが多い。

【写真】バート・バカラックとダニエル・タシアン

 この連載でも7月7日に公開した「ボブ・ディランのニュー・アルバム『ラフ&ロウディ・ウェイズ』は現代社会へのカウンターパンチ」で紹介した。今年79歳を迎えたノーベル文学賞受賞者でもあるこの大御所は、むしろ年齢を重ねれば重ねるほど、歌のすごみが増す稀有なミュージシャンの一人。その存在感が若い世代に届くのも当然と言える。

 だが、そんなディランよりまだ一回りも上の大ベテランが今年、アルバムをリリースしていることをご存じだろうか。現在92歳。「雨にぬれても」「ウォーク・オン・バイ」「小さな願い」など数々の名曲を世に送り出してきたアメリカの生ける伝説的コンポーザーのバート・バカラックだ。そのバカラックが40代のプロデューサー、ダニエル・タシアンと組んだアルバム「ブルー・アンブレラ」は、作曲家、アレンジャーとして今なお攻め続ける姿勢を見せつつ、エレガントに聴かせる素晴らしい1枚だ。

 1928年ミズーリー州生まれのバカラックが、音楽家としての才能を発揮し始めたのは50年代のこと。現代音楽を学んだり、ジャズの素養を生かしたりしながら、マレーネ・ディートリッヒのバック・バンドを務めたりした時代もあった。その後、ニューヨークに集中していた音楽出版社(楽譜などを扱う会社)界隈で商業作曲家として活動を開始。相棒であるハル・デヴィッドと組み、ディオンヌ・ワーウィックやカーペンターズに提供した曲を多数ヒットさせた。80年代以降も映画音楽や他のアーティストとのコラボレーションで安定した活動を展開。アカデミー賞やグラミー賞受賞も数知れず、90年代以降は若手アーティストからのリスペクトやトリビュートも増えている。

 そんなバカラックの最新作がダニエル・タシアンと組んだ「ブルー・アンブレラ」だ。ナッシュヴィルを拠点にするダニエルは、若手女性カントリー・アーティストのケイシー・マスグレイヴスが2018年にリリースしグラミー賞受賞したアルバム「ゴールデン・アワー」で注目を集めたプロデューサーだが、自身も艶のあるいい声の持ち主。今回の共演はその「ゴールデン・アワー」を聴いたバカラックからの誘いで実現したという。

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岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

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