個性豊かな棋士たちの「脳内」を知りたくなるのは将棋ファンだけではないはずだ/2019年1月、朝日杯将棋オープン戦での糸谷哲郎八段(写真右)と藤井聡太七段(当時) (c)朝日新聞社
個性豊かな棋士たちの「脳内」を知りたくなるのは将棋ファンだけではないはずだ/2019年1月、朝日杯将棋オープン戦での糸谷哲郎八段(写真右)と藤井聡太七段(当時) (c)朝日新聞社
羽生善治九段は、4分割した盤面が脳内で高速スライドするイメージだった(本誌2012年9月17日号から)(写真:高井正彦)
羽生善治九段は、4分割した盤面が脳内で高速スライドするイメージだった(本誌2012年9月17日号から)(写真:高井正彦)
渡辺明名人の脳内イメージは、ダークグレーの空間に駒の形や文字もはっきり浮かばない「暗黒星雲型」だった(本誌12年9月17日号から)(写真:高井正彦)
渡辺明名人の脳内イメージは、ダークグレーの空間に駒の形や文字もはっきり浮かばない「暗黒星雲型」だった(本誌12年9月17日号から)(写真:高井正彦)

 神秘ともいうべき棋士の頭脳は、これまでも長い時間をかけて研究されてきた。棋力に影響するものとは何か。天才たちの「脳」はこうしてできている。AERA 2020年10月5日号は専門家に取材。プロ棋士とアマチュアの差とは――。

【写真】羽生善治九段の脳内イメージは…

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 いずれ劣らぬ天才たちの必死の攻防が感動を呼ぶ将棋世界。では、盤上で激しくしのぎを削り合う棋士たちの頭の中身はいったいどうなっているのだろう。将棋ファンならずとも気になるこの「脳内模様」は、脳科学の研究テーマとして存在し、AI(人工知能)全盛時代の今、新たな視点を加えて進化を続けている。

「将棋が強い人は、なんで将棋に強い興味を持つようになったのかという視点に注目しています。具体的には『尊敬』の感情がどう棋力に影響するのか、データを取るところから始めるつもりです」

 東海大学情報通信学部の特任講師、中谷裕教さん(47)はこの10月から、東京大学と早稲田大学の将棋部員の協力を得て「将棋脳」科学の実験を再開する。中谷さんは2007年からの5年間、理化学研究所脳科学総合研究センターが日本将棋連盟や富士通などと共同で行った「将棋思考プロセス研究プロジェクト」で中心的役割を担った。将棋の駒の産地で知られる山形県出身で、自らもアマチュア初段の棋力を持つ、根っからの将棋ファンでもある。

■糸谷八段は「9×9」

 この時の調査では、70人のプロ棋士と115人のアマチュア高段者を被験者に、脳波測定やMRI検査で経験や知識に裏打ちされた棋士の「直観力」が、脳のどの部分の働きによるものかなどを解析。12年9月17日号の本誌でも「天才たちの『脳内パネル』」として特集し、羽生善治九段(50)や森内俊之九段(49)、渡辺明名人(36)らの頭の中で将棋盤がどう再現されているかを紹介した。

 たとえば、羽生九段は81マスの盤面を4分割した部分図が高速スライドして脳内を動き回っていた。森内九段は盤や駒だけでなく対局室の小物までがオールカラーで脳内に浮かぶ超リアル型、渡辺名人は頭の中に盤自体がなくダークグレーの空間に駒の形や文字もはっきり浮かばない「暗黒星雲型」ともいうべきスタイルだった。

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