この暗黒星雲型に近い、暗い脳内に黒っぽい駒らしきものがうごめいているという共通項にくくられるのが、佐藤康光九段(50)、郷田真隆九段(49)、久保利明九段(45)、広瀬章人八段(33)、里見香奈女流四冠(28)の面々。最も個性的だったのは清水市代女流七段(51)で、色も形もそのとき次第で海の中を駒が泳いでいたり、動物が駒のお面をかぶって走る「ファンタジー型」だった。

 ちなみに関西所属で同調査には参加していなかった糸谷哲郎八段(31)に「脳内パネル」をたずねてみると、こんな答えが返ってきた。

「私の場合は『9×9』のかっちりとした将棋盤が頭の中に出てきて、それを次々に動かしていきます。将棋中継みたいな感じですね」

■プロアマで直観力に差

 いずれにしても、棋士たちの脳内パネルにはかなりの個人差があった。中谷さんが言う。

「強い人には共通した何かがあるんだろうと思っていて、プロの方たちが違うふうに見えているとは想像できませんでした。しかし、人によって棋風や個性もあるし、研究は定量化しないと扱えないのでどう見えるかはあまり研究の材料にはならない。それより、MRI画像や脳波のデータでプロとアマチュアがどう違うかの方が重要でした」

 理研の行ったこの調査で明らかになったのは、詰将棋課題などでのプロ棋士とアマチュアの「直観力」の精度の差だった。「長考に妙手なし」の諺(ことわざ)通り、思考時間が短いほど正答率が高い傾向は同じだったが、アマチュアの場合は正答率そのものが大幅に低かった。(編集部・大平誠)

AERA 2020年10月5日号より抜粋