ワクチン開発に向けた研究は世界中で進められている。実用化と普及は東京2020に間に合うか、人類を挙げた挑戦が続く(写真:gettyimages)
ワクチン開発に向けた研究は世界中で進められている。実用化と普及は東京2020に間に合うか、人類を挙げた挑戦が続く(写真:gettyimages)
AERA 2020年6月29日号より
AERA 2020年6月29日号より

 世界各国でワクチン開発が急ピッチで進んでいる。先行するアメリカ、イギリス、中国の後を日本が追う。ワクチンの一刻も早い実用化が待たれるが、国産の確保も重要だ。AERA 2020年6月29日号で掲載された記事から。

【世界各国でのワクチンの「開発状況」はこちら】

*  *  *

 新型コロナウイルスのワクチン開発が急ピッチで進められている。WHOのまとめでは世界で100以上のワクチン候補の研究が進み、10程度で人に投与して安全性や有効性を測る臨床試験がスタートしている。早いものは、今秋の実用化も視野に入れているという。

 ワクチンは普通、実用化までに数年単位の時間がかかる。しかし、1月に新型コロナのゲノム情報が公開されてからわずか5カ月でここまで進んだ。

 先行しているのは英、米、中の3カ国だ。英ではオックスフォード大学と製薬大手アストラゼネカが開発するワクチンが9月の実用化を目指す。米モデルナ、中国のシノバック・バイオテックなども、臨床試験の最終段階を7月にも始める予定だ。

 やや後れを取ってきた日本でも、大阪大学と創薬ベンチャー・アンジェスで開発するワクチン候補が、7月にも臨床試験入りする見込みだ。主導する大阪大学の森下竜一・寄付講座教授は開発の意味をこう語る。

「海外のワクチンが実用化されても自国優先で、日本に入ってくるには時間がかかります。確保できる数も値段も未知数で、日本製をつくっておくことは感染症対策上重要です」

 森下教授らが開発しているのは、プラスミドというDNA分子に新型コロナウイルスの遺伝子情報を書き込んで投与する「DNAワクチン」と呼ばれるものだ。病原体を使わないので安全性が高く、大量生産も容易とされる。政府も臨床試験と量産態勢の整備を同時に進めることを認め、国内勢を後押しする。

 ワクチン開発は成功し、オリンピック開催の救世主となるのか。次々と発表されるニュースに接すると先行きは明るく見える。ただ、専門家の見立ては楽観的ではない。インペリアル・カレッジ・ロンドンの小野昌弘准教授(免疫学)はこう話す。

「各国でワクチンを早くつくろうという努力がなされているのは確かです。ただ、健康な人に投与するワクチンは通常の医薬品以上に安全性が求められます。効果を実証するのも簡単ではありません。大量生産までにはいくつもハードルがあります」

 ある外資系製薬会社社員も、「効果のあるワクチンが市場に出回るには1年半くらいかかる」とみている。(編集部・川口穣)

AERA 2020年6月29日号より抜粋

著者プロフィールを見る
川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

川口穣の記事一覧はこちら