もし東京五輪を開催できたとしても、観客をめぐる問題は避けられない。ソーシャルディスタンスの保ち方や観客減によるチケット収入の減少など不安要素が山積する。「五輪の条件」を特集したAERA 2020年6月29日号の記事を紹介する。
【五輪競技集中時はどのくらい通勤ラッシュの混雑は増加する?】
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選手の安全を確保できて開催にこぎつけられたとしても、会場に大勢の観客が集まれば感染のリスクは高まる。観客開催の検討や大幅な観客数の絞り込みは避けられない。
新型コロナ以降の新しい生活様式では、人と人との距離をできれば2メートル、最低でも1メートル保つよう求められている。台湾のプロ野球が5月に観客を入れて試合を再開したときには、前後左右の座席を空けて座る形にした。少なくとも両隣や前後を空けるようにすると考えると、観客数は単純計算で半分ほどになる。最大で7万2千人を見こんでいた観客数見直しは必至だ。
筆者(深澤)は昨年、ラグビーW杯日本戦全5試合を現地取材したが、試合開始の2~3時間前に最寄り駅に到着する電車は押しずしのようにぎゅうぎゅう詰めで、息苦しさを感じた。会場も入り口の手荷物検査や売店、トイレなど多くの場所で大行列、試合終了後は数万人の人波が一気に駅に流れ、本来5分ほどのところが1時間以上かかる混雑ぶりだった。
さらに東京五輪では、1日800万人と言われる首都圏の通勤・通学の鉄道利用者のラッシュ時間帯と重なる競技もある。
中央大学理工学部の田口東教授の試算によると、通勤ラッシュ時間帯に地理や乗り換えに不案内な観戦客が加わることで、新木場駅で通常のラッシュのピーク時の3.8倍、乗降客の多い新宿駅や東京駅でも2倍以上の混雑になる。混雑緩和の対策が取られない場合には、多くの駅で構内に乗客があふれ、身動きできなくなって電車が止まったり、事故が起きたりする恐れがあるという。これではソーシャルディスタンスを保つどころではない。
ただ、「危ないから無観客」といった単純な論理に反対するのは、日本スポーツマネジメント学会会長の原田宗彦・早稲田大学スポーツ科学学術院教授だ。