サーバーダウンで、マイナンバーの暗証番号の再設定手続きができないと、シート越しに伝える職員=5月11日、大阪市中央区の区役所で (c)朝日新聞社
サーバーダウンで、マイナンバーの暗証番号の再設定手続きができないと、シート越しに伝える職員=5月11日、大阪市中央区の区役所で (c)朝日新聞社

 マイナンバーカードと口座のひも付けを義務化しようとする政府。マイナンバー漏洩の可能性などを考えれば、国民に大きなリスクを負わせる施策だ。しかしこの件のように、国民にとって重大な法案を火事場泥棒的に通すのは、日本政府がよく使う手だ。AERA 2020年6月29日号では、安倍政権が押し通す法案に潜むリスクに迫った。

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 日本政府は火事場泥棒の常習犯だ。コロナ禍のドサクサでも、例の検察庁法改正案や種苗法改正案こそ見送られたが、年金支給年齢の引き上げを可能にする年金改革関連法制や、後述する「スーパーシティ」構想に道を開く改正国家戦略特区法など、国論を二分して当然の重要法案を、簡単に可決・成立させた。

 マイナンバーも火事場泥棒の産物だった。第1次安倍晋三内閣下の07年に「消えた年金」問題が発覚。その解決を掲げた民主党が政権を奪取して「社会保障と税の一体改革」を打ち出し、マイナンバーが不可欠だと導入の旗を振った(消費税増税については割愛)。やがて安倍氏が政権に返り咲いて法制化を果たす。彼は社会保障の充実を謳いつつ、逆に縮小していく社会保障制度改革推進法などの法整備を進めていった──。

「マイナンバー制度を活用し、国民にITの利便を実感していただくことが必要であります」

 IT総合戦略本部の会合で安倍首相がそう叫び、身分証明書やカード類の機能をマイナンバーカードに一元化する「ワンカード化」への期待などを力説したのは、14年6月のことである。この前年の、マイナンバー法が成立した頃には、産官学の交流組織「日本アカデメイア」で、こんなスピーチもしていた。今や世界は膨大なデータに溢れているとして、

「GPSで取った移動情報、ネット取引の情報など。付加価値の高い新たなサービスやビジネスを生み出し得る『宝の山』です。しかし、(わが国では)プライバシーか、データ利用か、という二項対立が続き、宝の山は打ち捨てられていました。これにもメスを入れます」

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