以来、マイナンバー制度はこのシナリオに沿って育てられてきた。マイナンバーを中核に、行政手続きを原則全てデジタル化していく「デジタル手続法」も昨年末に施行された。

 マイナンバーのモデルはIT先進国・北欧エストニアの番号制度だという。大臣や議員団、IT企業のトップらが、幾度も視察に出向いた。15年3月13日配信の「ダイヤモンド・オンライン」が、当時の同国CIO(最高情報責任者)のターヴィ・コトカ氏の談話を載せている。

<「エストニアでは、例えば私についてネット検索をすると、住所や給料も調べられます。ですが、これは“秘密”ではなく、透明性があるということに過ぎません」>

 ならばモデルの国を見習い、我々も透明性を高めるぞと言った政財官界の指導者を、しかし、筆者は寡聞にして知らない。それどころか彼らは、公文書や統計の改ざんや偽装さえ常態化させている。マイナンバーをマスターキーに、GPSの位置情報や、キャッシュレス決済で記録される買い物履歴、SNSでの発言、これから街中に張り巡らされていく顔認証付き監視カメラ網のデータから、一般市民の一挙手一投足を見張り、解析して、「信用スコアリング」と称する人間の格付けまで進める方向性を否定しないままに。

 これらは、いずれも中国や韓国で、すでに完全実用化されているものだ。新型コロナの感染拡大防止に役立ったと喧伝され、日本でも抵抗感が薄れつつある。政府の主導で19日に運用が始まった感染追跡アプリについても、これとよく似た、誰と誰が近づき、どれだけの時間を共に過ごしたかを解析するシステムが、一部企業で人事考課や労務管理に利用されている現実を承知しておくと理解しやすい。

 監視システムはアルゴリズムの世界である。外部からは何もわからないブラックボックス。

 前出の「スーパーシティ」構想とは、域内における決済の完全キャッシュレス化や、クルマの自動走行フル活用、遠隔教育、遠隔医療といった“丸ごと未来都市”の先取りだ。ビッグデータやAI(人工知能)を駆使する国策「ソサエティー5.0」の実装実験でもある。青写真を描いた有識者懇談会の座長は竹中平蔵・元総務相。国家戦略特区に選ばれた街の人々は、利便性と引き換えに、あらゆるツールで絶えず監視され、全言動をデータ化されることになる。

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