ここまで追い詰められる背景にあるのは、LGBT当事者への厳しい差別、偏見、無理解だ。

 北海道に暮らすレズビアンの女性(28)は不安を口にする。

「同性愛者=遊び人というイメージが先行して、同性愛者というだけで自粛をしない人々とみなされ、差別されるのではないか心配です」

 3月、大阪のライブハウスで集団感染が起きたと報道されると、ライブハウスに出入りしている人たちは危ないという噂(うわさ)が立った。もし、同性愛者が出入りするクラブやゲイバーでクラスターが発生したら、同性愛者がいるからコロナが流行(はや)ったという噂が立つのが怖いと言う。

「そうでなくても私たちへの差別や偏見が多いのに、根も葉もない噂で偏見がさらに強くなったらすごく生きづらいです」

 前出の首都圏在住のレズビアンの女性(22)は、新型コロナに感染した同性パートナーが、「家族ではない」という理由で面会できなかったというツイートを見て、とても不安になったという。同性婚の実現を目指して活動する「Marriage For All Japan」(MFAJ)が行った、コロナ禍がLGBTの人たちにどう影響しているかを探るオンラインアンケートでも、政府への要望で多かったのは「同性婚の実現」だった。

 日本は主要7カ国(G7)の中で唯一、婚姻やそれに準じる権利を認めておらず、同性カップルは何年も「家族」として生活をともにしていても法律上は赤の他人。片方が新型コロナに感染して重篤になっても、個人情報だとして病院や行政から教えてもらえない可能性が高い。

 結婚に準じた権利を認める同性パートナーシップ制度を導入する自治体が増えたが、大半の病院がLGBTカップルの患者受け入れに関する指針を持たず、制度も法的効力はない。そもそもアウティングを恐れ、窓口へ申請に行けない人もいる。

 都内在住で、同性パートナーがいる40代の女性は、20年以上パートナーと一緒にいるが状況は今も変わらないと話す。

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