※写真はイメージ(gettyimages)
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AERA 2020年6月22日号より
AERA 2020年6月22日号より

 LGBTの人たちが普段から抱く不安が、コロナ禍でより現実的なものとして増幅されている。入院しても知らされない、不本意に公表される……。まずは、法律上の不平等をなくす必要がある。AERA 2020年6月22日号では、コロナ禍で働く妊婦たちが直面する現実を取材した。

【アンケート】コロナ渦で募るLGBTの人たちの不安とは?

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 コロナ禍でのアウティングの不安が通常とは違う点は、自分ではコントロールできないところにある。

 関西地方に住む、戸籍上は男性だが女性として生きるトランスジェンダーの女性(24)も、アウティングの心配が身近な問題として迫ってきたという。

「私は戸籍を変更していないので、新型コロナに感染したら『男性』として報道されると思います。職場では、女性の名前で女性として働いているので、そうなるとアウティングされることになります」

 新型コロナ以前は、アウティングの不安は自身の発信の仕方や人に対する関わり方で、自分で気をつけることである程度はコントロールできた。だが、今回、新型コロナに感染した場合は、公的機関などに戸籍上の性別を公表されるケースがあり、メディアに報道されてしまう可能性がある。

「感染者が出るたびに感染者の戸籍上の性別まで公開する必要があるでしょうか。感染者の人権があまりにもないがしろにされていると思います」

 さらに、新型コロナによって自分たちはマイノリティーであることを改めて実感したというLGBT当事者も少なくない。

 都内のゲイの男性(30)は言う。

「5月までは僕たちの交流場所が閉じられていたので、誰かとつながれる場所がなくなったのでつらかった。自分たちには安心できる場所が本当に少ない、社会の端に追いやられている感じです」

 首都圏在住のレズビアンの女性(22)は言う。

「私たちは、当事者の集まりで感染したとしても、そうした場所に行っていたことを病院や保健所などに明かすとは思えない。自分のプライバシーを守るためにも、周りのLGBT当事者のプライバシーを守るためにも、できるだけ隠し通すと思うし、そうせざるを得ない。こうした有事の際には、マイノリティーから犠牲になっていくんだなと日々体感しています」

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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