5月下旬、東京の整形外科で患者が使うたびに、器具やいすを消毒して、患者の来院に備える診療所のスタッフ(撮影/井上有紀子)
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5月下旬、東京の整形外科で患者が使うたびに、器具やいすを消毒して、患者の来院に備える診療所のスタッフ(撮影/井上有紀子)
AERA 2020年6月15日号より
AERA 2020年6月15日号より

 いま、地域のクリニックなど診療所が苦境に立たされている。コロナ禍での受診控えに加え、感染予防のため消毒を徹底する手間、防護服やフェースシールドなどの資材費も重くのしかかる。AERA 2020年6月15日号から。

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 東京保険医協会の担当者は「最も受診控えが起こっているのは小児科。多くの保護者は、子どもへの感染を恐れている。整形外科でも、リハビリで人と密接することを嫌がる人がいる。口や鼻の中を処置する耳鼻咽喉科の患者減も深刻。診療科や診療形態によって状況も経営課題も違う」と解説する。

 雨が降った5月下旬の平日、都内の整形外科では、午後一番の開診時にもかかわらず、待合室には1人しかいなかった。通常ならば、この時間は1時間待ちになることもあった。4月と5月の患者数は、以前に比べて3割減って赤字になった。

 院長は言う。

「患者が減っているのに、経費は増えてしまいました」

 整形外科はリハビリを行うためスタッフ数が多く、人件費の比重が大きい。この診療所には、13人のスタッフが所属している。リハビリは患者の体に触れ、「密」な状態にならなくてはできない。スタッフは患者の足を曲げ伸ばししながら、「どうですか」と話しかける。感染を防ぐために、防護エプロンにサージカルマスク、フェースガード、手袋の装備を用意しているが、その資材費がかさむ。

「消毒も費用がばかにならないし、手間もかかる」。患者が触ったものすべてを毎回、消毒する。午前、午後とも診察終了時は、全員で床から医療機器まで徹底的にアルコールで拭く。結果的に「残業代が増えた」という。リハビリの機材を置く広いテナントの賃料も重くのしかかる。

 医療経営に詳しい国際医療福祉大学の高橋泰教授は「今後も患者が医療機関に行きしぶる流れは続く」とみている。

「多くの人は医療機関を『リスクの高い場所』と捉え始めました」(高橋教授)

 実際に、練馬区にあるよしだ内科クリニックの吉田章院長(67)は「通院の回数を減らしたいから、薬をまとめて処方してほしいという人が増えました」と話す。

「待っていれば患者が来る時代は終わりました。これからは医療機関側の集客に向けた打開策が求められています。感染の不安から受診を控える人のためにもオンライン診療や在宅医療が一つの突破口になるでしょう」(高橋教授)

 コロナ禍で感染を恐れて家に閉じこもりがちになってしまった高齢者の健康問題もある。デイサービスも中止されるなどしたため、筋力低下や要介護度の上昇も懸念される。

「介護事業者と連携を深め、高齢者の健康管理を積極的に担っていくことが求められます。テレビ会議を使って複数の介護事業者との勉強会を開いて受診を促したり、医療情報を提供したりして、顧客の確保につなげるべきでは」(同)

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、私たちの生活は変化や対応を迫られた。診療所のあり方も変わる時がきている。(ライター・井上有紀子)

AERA 2020年6月15日号