岡山大学大学院の津田敏秀教授(環境疫学)は、感染者の集積を予防するのと同時に、特定地域で医療崩壊の負の連鎖が起こり始めた時点でいち早く感知して対応するのが大事だと強調する。

「感知できたら、患者急増に対して医療資源が枯渇しないよう最善を尽くす必要があります。そのためには、病院・地域を超えて病床、医療スタッフ、人工呼吸器などの医療資源を相互に融通し合えるネットワークを事前に構築しておくべきでしょう」

 とはいえ、より重要なのは医療崩壊が起きる前段階で感染拡大を防ぐことだ。

■「危機感」が共有されず

 東京都の小池百合子知事は23日、都内で大規模な感染拡大が認められた場合、東京都を封鎖する「ロックダウン」も検討するとし、都民に大型イベントの自粛などをあらためて求めた。都知事がロックダウンに言及したのは、市民の間で危機感が十分に共有されていないことが背景にある。22日には、国と埼玉県が主催者に繰り返し自粛を求めていた「K‐1 WORLD GP」が「さいたまスーパーアリーナ」で開かれ、観客約6500人が入場した。

 国が掲げる基本対策は「クラスターの早期発見・対応」「患者の早期診断・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保」「市民の行動変容」の3本柱だ。このうち、最も困難なのが「市民の行動変容」だと唱えるのは、日本国際保健医療学会理事長を務める神馬征峰・東京大学大学院教授(国際地域保健学)だ。

 ネパールでは銀行入り口に設置したアルコール噴霧装置で手洗いをしない人は中に入れないよう警備員が監視しているという。神馬教授は言う。

「ネパールではまだ感染拡大は報告されていませんが、重症者が出るとしっかり治療できる施設は限られています。その危機感がこうした水際対策の徹底につながっているのでしょう。日本も見習うべき面はあると思います」

 世界は人、モノ、情報でつながっている。先進国・途上国を問わず、市民レベルの危機意識の共有が不可欠だ。(編集部・渡辺豪)

AERA 2020年4月6日号より抜粋

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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