「サイズ感や筆の運び、絵の具の盛り上がりなど、実物の前でないと感じられないリアリティーも多い。美術作品は、実は僕らと同じ生身の人間が汗水垂らして手がけたことで存在する。作品の前で、そんなことも実感してもらえるといいですね」

 なかでも今回、実物ならではの強烈なインパクトを与えてくれる作品のひとつが、厚塗りの作風で知られるゴッホの「ひまわり」だ。

 ロンドン・ナショナル・ギャラリーの「ひまわり」は、1924年に、ゴッホの弟テオの亡き後、義兄の作品を管理していたテオの妻、ヨハンナから直接購入したものだ。購入資金は、ロンドンにある「コートールド美術館」のコートールド氏のファンドから捻出。美術史上の有名人が多数登場する、めくるめく展開を経て、同館の収蔵品となった。

「同作を手放したくなかったヨハンナですが、最終的にコートールド氏の説得に折れて、義兄の作品を紹介してほしいと思っていたナショナル・ギャラリーに売却することを決意したといいます」(ライディングさん)

 同展では、ロンドン・ナショナル・ギャラリーが収蔵するその「ひまわり」が初来日。専門家が「おそらくこの先、二度とはないだろう」と口を揃(そろ)える、「ひまわり」をめぐる貴重なチャンスが日本で生まれる。

 生涯で、花瓶に咲くひまわりを7点描いたと言われるゴッホだが、黄色を背景に黄色の花を配したロンドンの「ひまわり」と同じモチーフの作品は、ほかに2点ある。東京の「東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館」(4月からはSOMPO美術館)が収蔵する「ひまわり」と、アムステルダムの「ファン・ゴッホ美術館」が収蔵する「ひまわり」だ。

 今回、ロンドンの「ひまわり」が来日したことで、東京の「ひまわり」とのハシゴ鑑賞が可能になった。両作品の実物ならではのさまざまな違いを感じられる、千載一遇のチャンスとなる。(ライター・福光恵)

AERA 2020年3月30日号より抜粋