そもそも疲労とは、何か。

「それは、脳にある自律神経の中枢が疲弊することです。疲れるのは体ではなく、脳なのです」

 こう話すのは、同クリニックの梶本修身(おさみ)院長(57)。03年10月から07年9月まで実施した産官学連携の「疲労定量化および抗疲労食薬開発プロジェクト」で統括責任者を務めた、疲労研究のスペシャリストである。

 かつては筋肉中に増える乳酸が疲労の原因だと考えられてきたが、近年の研究で、心拍や呼吸の乱れを調節する力が落ちるからバテるのだとわかってきた。心拍や呼吸に加え、血液の循環、消化吸収など生きるために必要なさまざまな生理現象を調節しているのが自律神経だ。

 全身の「司令塔」といわれる自律神経は、ほかの細胞と同じように酸素を消費しながら活動する。消費した酸素のうち1~2%は、強い酸化力を持ち、「活性酸素」と呼ばれる物質に体内で変化する。体には活性酸素から細胞を守るシステムが備わっていて、通常であれば細胞が傷つくようなことはない。ところが、激しい運動や長時間のデスクワークなどで強いストレスを感じると、酸素の吸入量とともに活性酸素の量も一気に増える。

 すると、何が起きるか。

「細胞を守るシステムが処理できる量を超えてしまい、自律神経の細胞が酸化し、傷つく。このように酸化ストレスにさらされた状態では、自律神経本来の働きができなくなり、パフォーマンスが低下してしまう。これが疲労の正体です。自転車のチェーンがさびて動きにくくなるのと同じです」(梶本院長)

 しかも、自律神経の機能は、年齢を重ねるごとに下がっていく。緊張状態で優位になる交感神経と、リラックス時に優位になる副交感神経の二つの機能の合計値をトータルパワー(TP)といい、個人差はあるが、年齢とともに右肩下がりに低下する。10代をピークに、20代から低下し、40代では20代の約半分、50代では3分の1……。

「筋肉は40代、50代になっても鍛えることはできますが、自律神経の機能の低下を防ぐことはできません。同じ活動をしても、年を取れば取るほど疲れやすくなったと感じるのは、仕方ないことなのです」(同)

 だからといって、年のせいにして放置すると、仕事や生活の質も落ちていく。身体をさびつかせず、疲れをとるためには、どうしたらいいのか。

 決め手の一つが食事だと、梶本院長は言う。

「働き方で肝心なのは、生産効率を上げること。食べ物や食べ方を工夫して疲れを減らすことは大切です」

(編集部・野村昌二)

AERA 2020年3月30日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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