インフルエンザにかかったら、抗ウイルス薬を使うかどうか、どう判断すればよいのだろうか。都内の専業主婦の女性(46)は、インフルエンザにかかって病院に駆け込んだとき、治療薬を出してもらえないなら「納得いかないでしょうね」と想像する。

 女性は、過去に何度もインフルエンザにかかった。今ではシーズン前には必ずワクチンを接種している。ゾフルーザを服用した経験はないが、これまでの抗インフル薬の服用で「ケロッと治っていました。症状が治まる可能性があるのなら、患者としては何か出してもらいたいです。もちろん、安全性と効果がちゃんとあって、国に承認されているゾフルーザも同じです」

 インフルエンザは休めば治ると言われても、1日でも早く治して社会生活に復帰したいのが多くの社会人の実情だ。かつて抗インフルエンザ薬として主流だったタミフルには、世界の生産量の約7~8割を日本が消費していたというデータもある。

「価値観の問題が大きい」と言うのは、医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師(51)だ。1度の服用で済むゾフルーザには使い勝手の良さもある。

「過剰にリスクをあおるのは良くないと考えています。専門家の仕事は、メリットとデメリットを分けて判断の材料を提供することで、判断することではない。そもそも、ゾフルーザ耐性ウイルスが世の中に広がることがあるのかどうかも疑問です」

 特に、医師側が「公衆衛生の議論、一本やりになっているのが気になる」と言う。

「医療現場というのは、『あなたにとってどうなのか』という話が大切なのです。公衆衛生という概念とまるっきり正反対で、むしろ公衆衛生は判断の一つに過ぎないと考えています。現場の医者は目の前の患者に使うかどうかを、個別の患者によって判断しなければなりません。仕事の忙しい人などであれば、私なら使います」

(編集部・小田健司、川口穣)

AERA 2020年1月20日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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