冬季の街中には風邪やインフルエンザ予防を意図してか、マスク姿の人が増える(撮影/写真部・小山幸佑)
冬季の街中には風邪やインフルエンザ予防を意図してか、マスク姿の人が増える(撮影/写真部・小山幸佑)

 インフルエンザが猛威を振るっている。「インフルエンザにかかったら抗インフル薬を」はすっかり一般的になった。だが、医師によると、インフルエンザにかかっても、抗インフル薬は「健康な人なら不要」だという。AERA 2020年1月20日号から。

【グラフ】意外?風邪の患者に抗菌薬を処方する医師の割合は

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 医師や患者はどうみるのか。

 千葉県南部の基幹病院として急性期の高度医療を提供する亀田総合病院では、ゾフルーザを採用していない。

 感染症科部長の細川直登医師(53)は、そもそも健康な人がインフルエンザに感染しても、抗ウイルス薬は不要だと考えているという。「高齢の方や子ども、基礎疾患のある人でなければ、自然に治る病気」(細川医師)だからだ。ただし、これは個別の薬剤の評価の前の議論で、ゾフルーザ自体を評価していないわけではない。亀田総合病院では採用を見送ったものの、ゾフルーザがこれまでにない作用機序を持っている点について、細川医師はむしろ高く評価している。

「タミフルやリレンザに耐性を持つインフルエンザがはやったときに、重症化しやすい患者の命を助ける切り札になる可能性があります」(同)

 また、ゾフルーザを含めた抗インフル薬を原則的に使わないというのは、耐性菌と同じ構図の問題が絡んでくるようだ。

「(抗ウイルス薬を含む)抗微生物薬を使って微生物を排除することで個人の利益は多少あるかもしれませんが、必ず耐性化する。それが世の中に広がると、公衆衛生上の不利益になる」

 過去には、タミフル耐性のウイルスが大流行したが、最近はそんな話も聞かなくなった。本当に耐性ウイルスが問題なのか。細川医師はやはり「問題がある」と考える。例に挙げてくれたのは、パーキンソン病治療薬の「アマンタジン」だ。

「この薬には抗インフルエンザ効果があって一時は広く使われましたが、耐性化したウイルスが広まって、今では毎年検出されるインフルエンザウイルスのほぼすべてがアマンタジン耐性です」

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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