東京大学未来ビジョン研究センター特任教授の古井祐司さんはこう話す。

「仕事や家庭を優先すると、『運動しよう』『規則正しい食事をしよう』と思ってもなかなか実行に移せない。日常のついでにできるスモールチェンジから始めることが大切です」

 古井さんは健康づくりに取り組む企業や自治体を支援しながら、これまで働き盛り世代のデータを分析してきた。その結果、仕事のタイプとその仕事に従事する人の健康状態は、四つのパターンに分けられることがわかったという。

 働きグセや健康リスクは自分では意識しづらく、一人の力では改善しにくいことが多い。大事なのは、自分の働き方と生活習慣の特徴を把握し、その上で健康を保つコツを知ることだという。

「できれば一人ではなく、仲間を作って一緒に取り組みたい。職場や部署全体で取り組めるならなお理想的です」(古井さん)

 オムロンヘルスケア(京都府向日市)では、2017年から高血圧による心疾患・脳血管疾患の発症ゼロを目指し「オムロンゼロイベントチャレンジ(オムゼロチャレンジ)」を行っている。その一環として血圧測定推進週間を年に数回設け、今年は7月と10月に実施した。

 全社員に自社の通信機能付きの血圧計を配布し、約2週間、家や職場で測定してもらう。

「まずは自分の血圧リスクを把握することが大切。社員同士の飲み会で血圧や歩数の話題が出ることもあり、意識改革になっています」(同社広報部の飯島かおりさん)

 健康診断の結果が正常値なのに、家庭で測る血圧の基準である135mmHg/85mmHg未満を超える仮面高血圧の疑いがある人も、毎回のように見つかっている。18年12月は、423人中117人(28%)、19年7月は513人中84人(16%)。割合が減ったのは、夏と冬の違いだと考えられる。血圧は、温度変化や寒さで上がりやすい。

 オムゼロチャレンジでは、社長や有志での京都マラソン参加、本社社員食堂で高血圧改善のための減塩ランチメニュー化、トレーナーを招き指導を受ける「カラダ改造チャレンジ」などを実施。19年には、社内の実名の対戦相手とその日の血圧などで勝ち負けが決まる“SUMOアプリ”を導入し、測定実施率90%を達成。前年の67%より大幅に上昇した。

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