「生徒にプレテストの採点の相談をされたときに自分でも判断しきれないケースがありました。自己採点がきちんとできないと、実力以上の大学へのチャレンジ出願の背中を押せなくなります」

 高校の教員が自己採点を手伝い、実際の点数より高くみてしまったため足切りされたり、逆に低く目算したことで第一志望をあきらめたり。そうした事態が起きたときに、教員と生徒との信頼関係を壊しかねない。そうしたリスクを指摘する声もあった。静岡県立掛川西高校教員の駒形一路さん(56)はいう。

「得点開示がされるのは大学入学や浪人決定後の4月中旬以降。その時点でそうした見誤りがわかっても、取り返しがつかない。教員や高校にとって大きなリスクです」

 短期間で大量に採点するため、解答のぶれ幅を抑える必要があり、国語の記述式のプレテストには「文頭」「文末」の言葉の指定など複数の条件がついていた。前出の紅野教授はいう。

「マークシート式とほとんど変わらず、本来の記述式とは似て非なるものです。多額のお金とリスクを負ってまで実施する意味がありません」

 条件付き記述試験の教育的な弊害を懸念する声もあがっていた。
紅野教授は「生徒たちが自由な発想ができなくなる」と指摘。福井県立大学の木村小夜(さよ)教授は署名提出の際、次のようなコメントを付けた。

「何かを書くということは、一定の分量のまとまった文章を読み込むことと同様、自分の思考過程とじっくり向き合い、言葉と格闘する力を本来必要とします。内容の薄い断片的な文章をつまみ食いする一方で、問いかけ文や条件の方を一生懸命読み取り、ひたすら箍(たが)に押し込むような記述の訓練をする、それが、読み、書くことだ、と若い人たちに勘違いさせてしまう、そんな入試を実施してはならない、と考えます」

 数学の記述式も、正答率の低さや採点の都合から、問題を解く手立てを短文で書く記述はなくなり、「数式等」の短答式となった。

「それでも解答には複数のバリエーションがあり、数学の確かな知識を持った人が採点しないと正答を間違いと判断してしまう危険性があった」

 予備校数学講師の中村拓人さんはそういう。

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「混乱の原因は共通している」