低用量ピルを処方され、飲み始めて2週間で症状はうそのように消えた。気持ちは凪(なぎ)のように安定し、ホットフラッシュもなくなった。「こんな簡単なことだったの?」と拍子抜けすると同時に、受診までに何年もかかったことを後悔した。

「もっと早く診てもらっていれば、大切な仕事や人間関係を失うこともなかったのに……」

 体調が安定すると仕事も波に乗り、今は執筆や講演に忙しい毎日を送る。葉石さんはこの10月、ネットの記事に自らのつらかった体験を書いた。当事者にはもちろん、これから更年期に向かう若い世代にも、「女性の体の変化について知ってほしい。治療法があることを知ってほしい」と思ったからだ。

「もちづき女性クリニック」理事長で獨協医科大学医学部産科婦人科特任教授の望月善子医師によれば、更年期障害の主な治療法はホルモン補充療法(HRT)、漢方。うつの薬もよく使う。

「どれか一つではなく、組み合わせることも多い」(望月医師)

 HRTについては、かつて「乳がんの発症リスクが高まる」とセンセーショナルに報じられ、日本での普及率は数%にとどまる。しかし、現在は国際的にも「リスクは低い」というのが一般的な見方だ。2016年に七つの国際学会が発表したグローバルコンセンサスでは、「1千人の女性に1年間HRTを行っても、乳がんになるのは1人未満で、生活習慣や肥満、アルコール摂取などの一般的な要因によるリスクの上昇と同等かそれ以下」と明記されている。

「更年期治療は日々進化しており、ホルモン剤にもいろいろな選択肢が出てきています。若い世代から正しい知識を身につけてほしい」(望月医師)

 患者にとって悩ましいのは、リスクに対する考え方や提示する選択肢が医師により微妙に異なることだ。例えば前出の吉野医師は、低用量ピルを40代の更年期治療にも使う。経口避妊薬としても知られるピルの中身は、HRTで使うホルモン補充剤と同じエストロゲンとプロゲステロン。配合されているエストロゲンの量が異なるだけだ。

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