「大人の思春期」とも言える更年期を上手に乗り越えるには、科学的知識とオープンな対話ができる社会環境が必要だ(撮影/写真部・東川哲也)
「大人の思春期」とも言える更年期を上手に乗り越えるには、科学的知識とオープンな対話ができる社会環境が必要だ(撮影/写真部・東川哲也)
年齢による女性ホルモン(エストロゲン)の変化(AERA 2019年12月9日号より)
年齢による女性ホルモン(エストロゲン)の変化(AERA 2019年12月9日号より)

 女性の心身の健康は、エストロゲンによって大きく左右される。ホルモンの乱れによって暴れだした心と体に戸惑い、自信を失っている女性は少なくない。AERA 2019年12月9日号から。

【図で見る】年齢による女性ホルモン(エストロゲン)の変化

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「ああ。また3時間も経ってしまった……」

 パソコンの前で仕事をしていたはずの翻訳者の女性(52)は我に返った。目は赤く、頬には涙が伝っている。ここ数年、突然悲しくなって、何時間も泣き続ける現象が続いている。泣きだすのに特にきっかけがあるわけではない。

「天から突如『悲しみ』が降ってくる感覚なんです」(女性)

 女性はフリーランスで、締め切りに間に合わなければ信用をなくす。我に返った後は必死だ。睡眠時間を削って帳尻を合わせるしかない。自己嫌悪の無限ループで気分が落ち込む。

 30代から月経痛や子宮筋腫の治療のため低用量ピルを服用していた。ピルには女性ホルモンを一定にコントロールする働きがある。しかし、40代半ばにかかりつけの婦人科医が亡くなり、同じころ持病のぜんそくが悪化。次にかかった医師からは「40代でのピル服用はリスクがある」と処方を止められた。不調が始まったのはそれからだ。

 真菌によって起きる「膣カンジダ」が頻発。生理周期は乱れ、1カ月近く出血が続くこともある。3年ほど前から、首から上がカーッと熱くなるホットフラッシュと、突然悲しくなる冒頭の現象が始まった。

「いつ不調の波が来るのか予測不能なのが一番つらい」(女性)

 女性は、いわゆる更年期にあたる。更年期は閉経を挟む前後10年を指す。日本人女性の閉経の平均年齢が50歳なので、だいたい45~55歳とされる。その間、体内で起きているのが、女性ホルモンの一種、エストロゲンの減少だ。

 エストロゲンは思春期から分泌が始まるが、20代でピークを迎え、その後は高い血中濃度を維持する。閉経の数年前から変動しながらも徐々に低下し、閉経を境に急激に下降する。

 更年期の症状の表れ方は千差万別だ。ほとんど感じず過ぎる人もいれば、あまりの不調に人生そのものを悲観する人もいる。

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