約5分20秒。普段はポップな楽曲でキレのあるダンスを見せることが多い嵐だが、この日は一節一節を情感たっぷりに歌い上げた。歌唱後、5人は中央の大野さんのもとへ集まって再び深く一礼をし、両陛下もこれに応えるように一礼して拍手を送った。静寂に包まれた会場で人々は日の丸の小旗を振った。

 国民祭典で人気アーティストが楽曲を披露するのは初めてではない。1999年の「天皇陛下御即位十年をお祝いする国民祭典」では、X JAPANのリーダーYOSHIKIさんが自作の「奉祝曲」を披露、2009年の即位20年の祭典ではEXILEが歌唱した。いずれも歓迎の声と共に「伝統を重んじる皇室行事にふさわしくない」という批判があった。

 今回の嵐の起用についても同様の声があったが、終わってみれば多くが好意的な反応だ。ネットなどには「皇居前が嵐ファンに占拠されるのでは」という心配の声も見られたが、嵐の登場時に歓声が上がることはなく、会場は厳粛な雰囲気だった。

 上皇ご夫妻の頃から皇室を見つめてきたという、静岡から来た女性(67)は笑顔でこう話す。

「式典のなかでも、奉祝曲がすばらしかったです。嵐もよかった。彼らのことはアイドルということぐらいしか知らなかったのですが、今日はアーティストや芸術家のように見えました」

 一方で会場の人々が戸惑う場面もあった。終盤、伊吹文明奉祝国会議員連盟会長(81)による「万歳三唱」の後、再び男性の声で「天皇陛下万歳」の声が響いたのだ。司会者が両陛下の退出を告げても終わらぬ声に困惑が広がった。その数、実に15回。音頭をとったのは、スピーカーを通した声だった。奉祝委員会には「誰かがマイクを奪い取ったのか」という問い合わせもあったというが、これは予定通りだったという。実際、報道関係者に配られたプログラムには、「両陛下ご退出(万歳三唱の中)」と書かれていた。一般参賀などでは、各所から自然発生した万歳三唱で天皇陛下と皇族方を見送ることが定着しているが、万歳を促すかのようにマイクでリードしたことに対し、SNSでは「万歳三唱怖い」「令和の時代に不似合い」「何度もするのは当然」などと賛否が分かれた。(編集部・福井しほ)

AERA 2019年11月25日号

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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