例えば、アスリートの腸内環境を見るだけで、その人の競技を特定できるという。保有検体数が多いサッカー・ラグビー・陸上(長距離)に関しては、なんと92%の確率で判別することが可能だ。

「競技によって、必要な体の機能が違いますよね。例えばラグビーだったら、瞬発力やパワー。かたや長距離ランナーの人たちは、持久力が大事。トレーニングの内容が違えば、体が欲するものも変わる。パワーをつけたい人はタンパク質を多くとるし、長距離ランナーはエネルギーになるものをとります。そういう食習慣の違いの積み重ねで腸内環境が変化していくのではと考えています」

 また、一般の人の腸内環境と比較して、アスリートの腸内には約2倍「酪酸菌」が多いこと、腸内細菌が多様性を持っていることも突き止められた。酪酸菌は免疫機能を整えたり腸の動きを活発にしたりする働きを持つ。

 研究結果を踏まえてAuBでは、酪酸菌がメインのアスリート菌ミックスを配合した「AuB BASE」を開発。12月の発売に先駆けて、現在、クラウドファンディングで先行予約を受け付け中だ。

 そもそも鈴木さんが腸に注目したのは、調理師である母親の影響もあるという。

「『腸がいちばん大事なんだよ』と小さい頃から言われて育ちました。栄養のことはもちろん、『腸は冷やしちゃダメ』『うんちを見なさい』とも言われました」

 初めは何のことかよく理解していなかったというが、おなかの調子が悪いときはコンディションが悪いと気づき、次第に気を使うようになった。

 腸内環境の研究はアスリートの課題解決に繋がり、さらに一般の人にも還元できると考え起業を決めた。2015シーズンで現役を引退する直前のことだ。

「腸内細菌って、自分とは別の生き物なんです。おなかの中にたまごっちを飼っていると思ったらいい。今回開発したサプリは、生きている彼らのために、餌や仲間を増やすもの。ちゃんと餌をあげないと育たないし、働かない。細菌は寝ることもなくずっと働き続けてくれています。ともに生きていることを理解して、いたわってあげてほしいんです」

(編集部・高橋有紀)

AERA 2019年10月28日号