ひとくちに鍵といっても、ロッカーの鍵から南京錠など、さまざまなタイプがある。さらに気候や温度などによって、開け方は異なる。授業ではひたすらカリキュラムに沿って鍵を作る。教室で6時間近く、やすりで鍵を削り続けることもあるというが、諸房さんはまったく苦にならないという。

「カチッと鍵が開く音がする快感が忘れられない」

 講師の高橋優希さん(27)はこう語る。

「一般的な住宅の鍵なら1、2分で開けることができますが、それで料金相場は1万円以上。腕次第で稼げる仕事です」

 諸房さんは有給休暇を消化し終える頃までに、転職先を決めるつもりだという。

 こうした養成所では業界と直結した、よりニッチな分野を学ぶこともできる。ただし学ぶ場を選ぶには注意が必要だと、ベネッセ教育総合研究所の佐藤昭宏主任研究員(37)は助言する。

「養成所のような無認可校には、認可校に劣らない教育を提供する学校もあれば、設置基準がないため悪質な経営やカリキュラムでトラブルを起こす学校もあります。費用対効果や学ぶ環境を自分の目で見極めることが大切です」

 そうした注意点を守れば、社会人が新たな分野を学ぶことは、大きな武器になるという。

「今は同じ組織や職種で肩書や役職を積みあげていく『足し算』ではなく、働きながら新たに学び、スキルや経験を掛け合わせて人生を創る『かけ算』の時代です。社会人の学び直しは、自らの人生の可能性を鍛え、自分の適性や適職を見つけることにつながります」(佐藤研究員)

(ライター・井上有紀子)

AERA 2019年9月30日号より抜粋