久保は当初、スペインの3部に相当するリーグに参戦しているレアルのBチームでプレーする予定だった。監督は、レアルやスペイン代表でストライカーとして輝いた、ラウル・ゴンサレス。練習では、ジダン監督率いるトップチームにも参加できる。成長の場としては、十分すぎる環境と思われていた。
ただ、プレシーズン期間の試合でトップ出場を果たし、評価がグンと高まったことが状況を変えた。現地メディアによれば、同じスペイン1部の数クラブがオファーしたという。その中から選んだのが、今季2部から1部に復帰したマジョルカだった。
FC東京の幹部は、こう話す。
「1年間は期限付き移籍には出さないという話を聞いていた。少し驚いた」
ただ、久保は昨季、出番を求めてJ1の横浜F・マリノスへ期限付き移籍をした経緯がある。
「彼の性格を考えると、より出場できる可能性を考えて、決断したのではないか」
久保には「外国人枠」という壁もあった。スペインは原則、EU(欧州連合)外の選手登録は3枠。レアルでは、まずその3枠を巡る争いがあった。ドイツ1部で日本人が多くプレーできたのは、外国人枠がなかった影響もある。近年、日本選手の移籍が増えたベルギーも同じだ。
外国人枠が存在するリーグの各クラブは、補強の段階で、EU外選手の登録枠を踏まえた編成を考える。当初、Bチームでのプレーが想定されていた久保が序列を覆すのは、高いハードルだった。
世界トップレベルの選手たちとの練習も魅力的。だが、選手を一番成長させるのは、試合に出ること。これはサッカー界の定説だ。選手は、ピッチで輝いてこそ。格落ちのように見える久保のマジョルカ入りも、長い目で見たら正しい判断と言える。(朝日新聞スポーツ部・勝見壮史)
※AERA 2019年9月16日号