「中学も高校も遊びに行っていただけで、教科書を一冊も読んだことがなかった。誰でも入れる私立大学はありましたが、どこも学費が高かった」

 選択肢は学費も安く、入試のない放送大学しかなかった。勉強嫌いの谷口さんだったが、就職したいという一心で、4年間で必要な単位を揃えた。

「映像授業をスマートフォンに落とし、それを1.5倍速でひたすら見るんです。理解できないところだけは教科書で確認する。私が卒業できたのだから、やる気があれば卒業できますよ」

 ただ、就職には苦労した。放送大学に就職のサポートはない。大学3年の2月、街にリクルートスーツ姿の大学生を見つけ、初めて就活が始まっていることに気がついた。当時、就活サイトのオープンは12月。2カ月出遅れていた。

「面接のやり方、就活のスケジュール。何もわからないので、実戦で勉強しました。面接担当者に『金髪はまずいですか』と聞いて、黒に戻したくらいです」

 情報がないうえに、就活では知名度もない。グループ選考で「放送大」と言っても「法政大?」と聞き返された。大手就職サイトの大学名を選択する欄に「放送大学」はなく「その他」を選択した。

 ただ、就活のマニュアル人間にはない魅力が谷口さんにはあった。最終的に4社の内定を得た。それも2社は、大手人材広告会社のリクルートとマイナビだ。有名大学の学生でもそう簡単に内定はとれない。谷口さんは「放送大学を4年で卒業できるなんてすごい」と評価してくれたマイナビを選んだ。

 入社後、有名大学出身の同僚を抑え、営業成績も上位に。インセンティブも入れた年収は1年目で600万円を超えた。セーフティーネットとしての放送大学に救われ、そして成り上がった。

 放送大学について語るとき、谷口さんの言葉に説得力が増す。

「積極的に勧めることはしないけど、放送大学しかない人もいる。諦める前に放送大学があることを知ってほしい」

 放送大学には入学資格が一つある。それは、学びたいという気持ちだ。(編集部・澤田晃宏)

AERA 2019年6月24日号より抜粋