会社員 谷口彩さん(28)/川崎市出身。結婚後、子育てしながら営業の仕事を続けるイメージが持てず、事務職に転職した(撮影/編集部・澤田晃宏)
会社員 谷口彩さん(28)/川崎市出身。結婚後、子育てしながら営業の仕事を続けるイメージが持てず、事務職に転職した(撮影/編集部・澤田晃宏)
放送大学の学生(学部生)(AERA 2019年6月24日号より)
放送大学の学生(学部生)(AERA 2019年6月24日号より)

 懸命に学び続けようとする若者にとって、「学びのセーフティーネット」である放送大学。実際に進学した人の動機や苦労、そしてその後の進路とは。

【放送大学で学んでいるのはどんな人?年齢や学歴のデータはこちら】

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学びのセーフティーネットとして存在感を示す放送大学。ただ、「大学生活」に期待するものすべてを得られるわけではない。昨年放送大学に入学した大阪市のアルバイト女性(19)は、入学から半年で抑うつ状態になった。

「勉強をさぼっても注意されるわけでもなく、励まし合う友達もいません。学習センターに行っても顔を合わせるのは親より年上の人が中心。人と話すことがなく、家にこもりがちになった」

 女性は、両親の離婚を機に母親と2人の妹と暮らしてきた。日頃からお金の苦労を聞き、できるだけ学費の安い大学はないかと考え、放送大学に入学した。ほかの通信制大学も調べたが、

「臨床心理士になるという夢があり、心理学系の資格が取得できる放送大学を選びました。目的がなければ、ただ安いから、大卒資格がほしいからという理由だけでは続かないと思います」

 学習内容も簡単ではない。難関大の受験経験がある放送大学に在学中の小澤茜さん(19)は話す。

「出席さえすれば取得できる単位はなく、学習内容も高度です」

 放送大学前学長の岡部洋一さん(75)は、関係者限定のフェイスブックグループ「放送大学バーチャルキャンパス」を運営している。現在、メンバーは約3千人。岡部さんはこう話す。

「学生と教員がなかなか会えない大学であり、一人では勉強のモチベーションの維持が難しい。お互い励ましあったり、情報交換をしたりする場が必要だと学長時代から感じていた」

 若者が運営するSNSのコミュニティーもあるが、地域差があり自発的な参加に限られる。学費の安さも、裏を返せば、途中でやめやすい原因になる。

課題はまだある。東京都の会社員、谷口彩さん(28)は高校時代、バイト先で10年以上働くフリーターの姿を見て、自分は安定した仕事に就きたいと大学進学を決意した。しかし──。

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