棚橋弘至(ひろし=42)も、割れんばかりの拍手に迎えられた一人だった。2000年代の「低迷期」を支えた立役者。06年に迎えたタイトル戦では、ベルト保持者の元WWE王者が試合会場に来ないという屈辱を味わった。プロモーション活動やファンサービスを徹底してやってきた。

 満員の会場の花道をゆっくりと歩くその姿は、現実をかみしめているように見えた。試合後のコメントがそれを物語る。

「とても壮大な物語だった。新日本プロレスの合宿所に一歩踏み入れたその足が、MSGにつながっていた」

 メインを務めたのは、オカダ・カズチカ(31)。カリスマ的な存在になりつつある現代のエースだ。前日のイベントでは約2時間、サインや握手を求めるファンの列が途絶えなかった。試合では、ゴングが鳴っただけで「オカダ、オカダ」。女性人気も高く、悲鳴にも似た黄色い声援も混じる。そして、新日本プロレスで一番重みのあるIWGPヘビー級王座を奪還。英語で客席に告げる。「ただこう言いたい。サンキュー。世界中のみなさん」。オカダ、オカダ。「シー・ユー・ネクスト・タイム」

 この日、チケットは約1万6千席が販売当日に完売し、9割以上が現地のファンで埋まった。試合が終わったのは、日付が変わる直前の午後11時55分。それまでに帰宅した客はほとんどいなかった。トイレや飲食ブースに人だかりがあったのは、試合の合間の時間だけ。みな、リングからひとときも目を離したくなかったのだろう。

 試合開始の3時間以上前から選手の入りを待っていた地元ニューヨークの飲食店従業員、アンドレ・バーネット(30)は「いいか、この大会はヒュージ・ディール(一大事)なんだ」と興奮しきっていた。

 アンドレが新日本を見るようになって10年。「WWEよりも、選手たちの『相手を負かしてやる』という思いが強い。その懸命さが魅力なんだ」

 新日本内のヒール(悪役)ユニットのロゴが書かれた帽子、Tシャツ、ジャケット。そして手にはチャンピオンベルト。会場には、そんなアンドレと同じような装いのファンが多く見られた。試合後も、50人ほどが出待ちをしていた。

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