「弊社から作品をリリースしている歌い手やボカロPも、本名や素顔を公開している人はごくわずか。代わりに自分をキャラクター化したイラストをプロフィールアイコンにして活動されている方がほとんどです」(川合さん)

 歌い手やボカロPのファン層は、10代前半から20代前半。アニメやゲームなどのサブカルチャーとも親和性の高い彼らにとって、そうした歌い手たちのアイコンは親しみやすい存在として映るだろう。

 また、10代から20代の若者は、ユーチューブやニコニコ動画などを好んで視聴する層でもある。

「こうした動画共有サイトの盛り上がりと同時に、『歌ってみた』やボカロ音楽の人気が高まっていった部分はあります」(同)

 10年代以降、音楽は「聴く」と同時に「視(み)る」ものになった。より多くの人に視聴されるには、歌の巧みさや楽曲の良さだけでなく、アーティスト自身のキャラクターや歌詞の物語性、斬新なミュージックビデオなど、総合力としての「世界観」をどれだけ演出できるかが求められる。

 歌い手やボカロPのみならず、米津玄師やEve、Uruといった“ネット発”のアーティストが若年層から強く支持されるのは、こうしたメディアの特性を熟知し、没入感の高い音楽世界を構築できているからだろう。

 一方で、歌い手を介して、現実世界に新たな「世代間交流」の場も生まれている。

 今年2月、東京・代々木にあるライブハウス・バーバラで、5人の歌い手によるライブが行われた。集まった歌い手は、性別も年代もバラバラ。サラリーマンから主婦、女子高生、下は13歳の男子中学生まで名を連ねる。

「みるさん」の名で活躍する阿部知佳さん(42)は、11年前から歌い手としての活動を始めた。きっかけは「カラオケSNS」との出合いだったという。

「元々歌うことが大好きなのですが、当時は育児と仕事が重なってカラオケにも行けず、大きなストレスを抱えていました。そんなとき、自宅にいながら自分の歌を録音して投稿できるサイトがあることを知って、一気にハマったんです」(阿部さん)

 今は「ツイキャス」などのライブストリーミングサービスを使って、週3日ほど自宅から弾き語りを生放送している。

 配信中は、視聴者からリアルタイムでコメントやリクエストが届くため「自宅にいながらトークライブをしている気分」だという。

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