リキッドバイオプシーに医師たちがかける期待は大きく、この三つの手法について、さまざまな研究が進められている。

 リキッドバイオプシーをCTCから研究している杏林大学医学部教授の桶川隆嗣医師(泌尿器科学)は、血中にがん細胞がある理由をこう解説する。

「進行がんは多臓器転移をします。血液を介して転移し、がん細胞が血中を流れているのでは、という考え方は1980年代からありました。医療技術の進歩により、2000年代になってから、生きたがん細胞を抽出できるようになりました」

 07年には、乳がん大腸がん、前立腺がんで生きたがん細胞を検出する技術が米国のFDA(食品医薬品局)で認可されている。同大では、血中からCTCを検出する治験も進行中だ。

 後藤医師が責任者を務めるSCRUM-Japan(スクラムジャパン)でも、セルフリーDNAを用いた研究がはじまっている。スクラムジャパンとは、産学連携全国がんゲノムスクリーニングプロジェクトのこと。国立がん研究センターを中心に、全国約260の医療機関と17社の製薬会社が参画、がん患者の遺伝子情報を集積し、遺伝子変化に合った治療薬や診断薬の開発を目指している。対象となるのは、肺がんと大腸、胃、食道などの消化器がんだ。

 すでにセルフリーDNAによる検査が国に承認され、保険適用になったものもある。たとえば、肺がんのEGFR検査とEGFR阻害薬の投与がそうだ。近畿大学医学部教授の西尾和人医師(ゲノム生物学)は言う。

「肺がんには、細胞のがん化やがん細胞の増殖に関係する、EGFRというドライバー遺伝子があり、EGFRの遺伝子変異でがんが進みます。このEGFRの遺伝子変異を阻害する薬がEGFR阻害薬という分子標的薬で、肺がんの治療で大きな成果を上げてきました」

 EGFR阻害薬は、EGFR変異が陽性でなければ効果が期待できない。投薬するにはEGFR変異が陽性でなければならない、という条件(コンパニオン診断)が定められていた。

「従来は生検でEGFR変異が陽性と認められなければ、EGFR阻害薬を使うことはできませんでした」(西尾医師)

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