血液からがん情報を読み解く(AERA 2019年2月11日号より)
血液からがん情報を読み解く(AERA 2019年2月11日号より)

 生検で組織を採らなくても、血液の情報から自分のがんにどんな遺伝子変化があるかがわかる。そんな手法の研究が世界中で進んでいる。

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 がんは根治できる段階を過ぎれば、抗がん剤などを使って進行をコントロールしていくのが一般的だ。そして、がんは変化を続け、徐々に抗がん剤に耐性を示すようになっていく。がんがそのときどんな状態でどの遺伝子が変化を起こしているかは、がん治療を選択するうえで重要な情報だ。

 いま、がん治療や治療薬の選び方が変わろうとしている。そのカギとなり、医師たちの大きな注目を集めているのが「リキッドバイオプシー」だ。

 リキッドバイオプシーとは、血液など体液(Liquid(リキッド))内のがん由来の遺伝子変化などの情報を調べて、がんの診断や治療法の選択、治療効果の予測を行う手法のことだ。

 これまで、がんの治療法を選ぶには、「生検(Biopsy(バイオプシー))」によるがんの組織診、細胞診が一般的だった。生検は、手術や内視鏡検査などによって行うことが多く、腫瘍部に穿刺(せんし)して組織や細胞を採取する。直接臓器から採る必要があるため、患者の負担が大きいという問題があった。病状や年齢によっては体力的に生検を諦めざるを得ない場合もあり、肺やすい臓など生検自体が難しい臓器もある。

 だが、リキッドバイオプシーなら、10~20ccの採血で済むため、患者の負担が極めて小さい。

 さらに大きいのが、腫瘍の遺伝子情報を踏まえた治療を選択できるというメリットだ。血液採取は何度でも行えるため、がんが変化し抗がん剤の耐性を得た場合も、各段階で治療薬を適切に選ぶことが可能になる。

 なぜ、血液から、がんの情報がわかるのか。

 国立がん研究センター東病院の呼吸器内科長、後藤功一医師によると、リキッドバイオプシーの手がかりは、大きく分けて三つあるという。

「ひとつは、血中に流れ出てくるがん細胞、CTC(Circulating Tumor Cells)を調べる手法です。もうひとつは、がん細胞から流れ出たDNAのかけらを調べるというもの。DNAのかけらはセルフリーDNA(cfDNA)といわれ、いま非常に盛んに研究が進められています。三つめは、細胞はエクソソームという分泌物を出しますが、がん細胞が分泌したエクソソームの中のマイクロRNAを手掛かりにするというものです」(図)

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