肺という臓器は風船にも例えられる。生検で穿刺すればリスクも伴い、何より高齢の患者や体力の落ちた患者にとっては負担が大きい。非小細胞性肺がんの患者の30~40%にEGFRの遺伝子変異があるといわれ、特に女性の肺腺がんでは50%にのぼるという。効果がある可能性があっても、EGFR陽性が証明できなければ、EGFR阻害薬の投薬を断念するほかなかった。

 けれども一昨年、血漿中セルフリーDNAを用いた治験の結果、リキッドバイオプシーでEGFRに変異が認められれば、標準治療で分子標的薬を使えるようになったという。

「組織診でも、採取した箇所によっては遺伝子変異が検出されないこともあり、肺がん患者のなかには2割程度、組織診陰性でリキッドバイオプシー陽性という人もいるとも考えられます。リキッドバイオプシーで陽性なら、EGFR阻害薬を投与すれば、一定のサバイバル効果が得られることがわかりました」(同)

 リキッドバイオプシーは、医療経済面でも効果的だ。分子標的薬などの抗がん剤は高額だが、事前に治療効果予測が立てられるからだ。ノーベル賞受賞で注目を集めた、免疫チェックポイント阻害薬も、リキッドバイオプシーでより効果的に使われる可能性があるという。

「免疫チェックポイント阻害薬は、臓器を超えて承認されています。bTMB(血液中の腫瘍遺伝子変異量)は免疫チェックポイント阻害薬の有望なマーカーです。bTMBをリキッドバイオプシーで確認できるようになれば、効率的な治療につながるでしょう」(同)

(編集部・澤志保)

AERA 2019年2月11日号より抜粋