予防接種の重要性を訴えるのも、患者本人だけの問題ではすまないからだ。岐阜市の可児(かに)佳代さん(64)は01年、自身がかかった風疹の影響で長女を亡くした。妊娠初期(20週ごろまで)の女性が風疹にかかると、赤ちゃんが目や耳に障害を持って生まれる可能性がある。先天性風疹症候群といい、2050グラムで生まれた長女は心臓病を患い、目も見えず、耳も聞こえない状態だった。可児さんは現在「風疹をなくそうの会『hand in hand』」の共同代表として、風疹の啓蒙活動に取り組んでいる。

「風疹は大人の病、特に30代から50代の男性の病気です。妊婦さんと、妊婦さんの周りのパートナーや家族だけが予防しても、周囲に無自覚な感染者がいれば、妊婦さんを守れません。『結婚しないから』などと、他人事の男性には自覚を持ってほしい」

 17年に報告のあった風疹患者の約15%が海外で感染した輸入例だった。日本人が海外に行くだけではなく、外国人労働者の受け入れも進んでいる。可児さんはこう指摘する。

「外国人の行き来も増えるなか、国内にとどまらない予防接種の体制づくりも必要でしょう」

 企業の中には、社員が予防接種しやすいよう、独自の対策を行っている会社もある。

 IT大手のヤフージャパンは風疹が流行した5年前、全社員・契約社員を対象に、上限7千円まで風疹予防接種の費用を助成する制度をつくった。今年は風疹の拡大を受けて9月5日、同社のグッドコンディション推進室が制度利用をあらためて呼びかけたところ、10月18日までに96人が接種した。

 プラント大手の日揮は昨年、神奈川県の風しん撲滅作戦の要請を受けて、ワクチン接種が不十分な世代の男性社員で希望した100人を対象に、勤務時間内に社内にある健康管理センターで抗体検査を実施。抗体が不十分だった31人は会社が費用を負担して予防接種を受けられるようにした。今年は新入社員と海外赴任者を対象に風疹、麻疹の抗体検査を実施し予防接種の費用を負担している。

 こうした対策は、「大企業だからできるんだろう」と考える人もいるかもしれないが、「小規模だからこそ、制度化しなくても簡単にできます」というのは岐阜県関市などで3店舗展開するウラタ薬局取締役の浦田悠宇(ゆう)さん(35)だ。22人の社員、パート社員が風疹やインフルエンザなどの予防接種を受けてきたら、領収書を会社に提出すれば全額助成。勤務時間中に抜けて接種に行くのも認められている。

「風疹にかかればしばらく出勤停止になってしまう。ちゃんと予防接種を受けられる環境をつくることは、スタッフにも会社にもメリットがあります」(浦田さん)

(本誌・澤田晃宏、深澤友紀)

AERA 2018年10月29日号