佐々木亮弁護士らの懲戒を請求する書類の束。ある封書には、幼稚な表現で「脅し」とも取れる言葉がつづられていた(撮影/写真部・大野洋介)
佐々木亮弁護士らの懲戒を請求する書類の束。ある封書には、幼稚な表現で「脅し」とも取れる言葉がつづられていた(撮影/写真部・大野洋介)
懲戒請求者とみられる人から届いた封書に入っていた、「外患誘致」と書かれた紙片を示す佐々木亮弁護士(左)と北周士弁護士(右) (c)朝日新聞社
懲戒請求者とみられる人から届いた封書に入っていた、「外患誘致」と書かれた紙片を示す佐々木亮弁護士(左)と北周士弁護士(右) (c)朝日新聞社
ネット右翼に関するウェブ調査結果(AERA 2018年10月22日号より)
ネット右翼に関するウェブ調査結果(AERA 2018年10月22日号より)

「ネット右翼」。過激な表現で排外主義などをインターネット上で発信する人々の呼称だ。多くが匿名の下に姿を隠していたが、その属性を明らかにしようとする研究や、法的責任を問う動きも出ている。

【図表で見る】ネット右翼に関するウェブ調査結果

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「懲戒請求者は9000000000名ですからね」「朝鮮人学校補助金支給要求声明に賛同し、その活動を推進する行為は…(中略)…二重の確信的犯罪行為である」

 書類をめくるたび、頭がくらくらした。幼稚な表現や、荒唐無稽な理由で「糾弾」する添え書きが延々と続く。一方で印象に残ったのは、請求者が自分の名前や住所を手書きで記した文字の達筆ぶりだ。律儀に捺印もされている。外形的な体裁と、主張や行動とのアンバランスさが際立つのだ。

 バインダーに綴じられた約3千件分の懲戒請求の書類の束を前に、東京弁護士会所属の佐々木亮弁護士(43)はこう振り返った。

「本当に意外でした。10~20代の人たちがやっているイメージでしたから」

 懲戒請求は、弁護士の行動に問題があった場合に、その弁護士に対する懲戒処分を弁護士会に求める行為だ。佐々木弁護士は、朝鮮学校への補助金停止に反対する日本弁護士連合会声明に賛同していると、特定のブログなどで発信されたのをきっかけに今年5月時点で約3千件の懲戒請求を出された。同じ被害を受けた北周士(かねひと)弁護士とともに会見を開いて実態を公表した。

 その後、佐々木弁護士が和解を呼びかけると、約20人が応じた。大半が40~70代の中高年の男性だった。いずれも、保守派の政治ブログの内容を鵜呑みにし、煽られるまま懲戒請求の挙に出ていたのだ。佐々木弁護士は言う。

「それなりに判断能力のある人たちだと思うのですが……。ほんの一部ですから、請求者全体で中高年男性が多いとは断定できませんが、社会経験を積んだ人たちが、なぜこんな非常識な行動に出たのか、いまだに不可解です」

 佐々木弁護士は7月、大阪市のサーバー管理会社に対し、懲戒請求を呼び掛けたブログ運営者の発信者情報の開示を求める訴訟を大阪地裁に起こしており、ブログ運営者を特定次第、刑事責任を追及する方針だ。和解に応じない請求者に対しては全国規模の弁護団を結成し、損害賠償請求の準備も進めている。佐々木弁護士の意図は明確だ。

「他人に著しい迷惑行為を及ぼすネット右翼の人定と社会的責任を明確にすることで、同様の被害を抑止したい」(佐々木弁護士)

●支えるのは「愛国心」ではなく他国への「蔑視」

「ネット右翼」はメディアリテラシーに乏しい若者層と考えられがちだが、実際は中高年層の男性が多いのではないか。そんな見方も広まりつつある。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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