●ネット右翼・左翼ともにより強める効果

 ネットやSNSの特性と、人間の本能を重ねて捉える見方もある。

「情報拡散のシステムやメカニズムを知る必要がある」と説くのは東京大学大学院の鳥海不二夫准教授(システム創成学)だ。弁護士懲戒請求に関しても、請求者たちは「見ている世界が違う」ことに留意する必要があるという。

「悪人を懲らしめるための正義の行為だ、との情報をネットで浴び続け、ブログで名前の挙がった弁護士は『悪い人』だと信じていれば、懲戒請求はごく自然な行為だったはずです」

 外形的には悪意に満ちた「攻撃」でも、本人にとっては「善意の拡散」である点に目を向けなければならない。これには、ネットの特性を認識する必要がある。前出の辻准教授は説明する。

「ネットは、排外主義的傾向のある人をより排外主義的に染める作用をもたらす一方、排外主義を矯正する傾向のある人の意識も、同様に強めるという、逆向きの効果を同時に及ぼします」

 つまり、「ネット右翼はよりネット右翼的に、ネット左翼はよりネット左翼的に」なる効果をもたらす、というのだ。なぜそうなるのか。

 人間の情報処理能力には限界があり、ネットの膨大な情報をすべて受容することはできない。ネットは、自分の考えに合う情報を選択して集めようとする「情報の選択的接触」や、サークル内で類似の価値観や思考が循環し、こだまのように互いの声を増幅し合って主義主張を強固にしていく「エコーチェンバー」といった作用が働く。

●「ネトウヨの中高年男性=悪者」思考は危険

 こうした作用が、自分にとって有益だと感じられ、吸収して心地いい情報のみを集めるようになり、特定のサイトをめぐるようになる。さらに、そのサイトが特定の「悪人」を見つけ、バッシングすることを奨励している場合、加担することで、「自分が正義の味方になったようで気持ちがいい」と感じる人が多ければ、アクセス数も増え、サイトは商業的に潤い活性化する。

 では、利用者の側は、ネット社会とどう向き合えばいいのか。

 鳥海准教授は「ネット右翼であろうとネット左翼であろうと、固定したイメージで捉えるべきではない」と言う。

「たとえば今回の弁護士懲戒請求事件を受け、『ネット右翼=中高年男』といったペルソナ(人物モデル)を仮想するのは間違っています。『ネット右翼の中高年男=悪者』というイメージに感化され、叩いてもいい存在なんだと感じた人がいれば、弁護士に懲戒請求した人たちと同じですよ」

「自分は違う」と思いがちなのが、一番の問題だと鳥海准教授は強調する。

「無駄な炎上で傷つく人を生まないようにするのに最も重要なのは、炎上に加担するのは『自分である』とまず自覚することです」

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