「もちろん、動物はしゃべらないのでこう言うかわかりません。だけど、悲しいことがあるとそれを笑いに変えたくなります」

 イラストを描いていると、動物たちの感情が乗り移ってきたと振り返る。

「せつない表情を描いていましたので、自分も、その間ずっと悲しそうな表情になっていました(笑)」

 動物たちの大きさや生息地などの図鑑データも付記されているので、読むと知識もついてくる。だけどそこまで読み込まなくても、意表を突く見出しとつぶやき、そして愛らしいイラストを眺めているだけで、せつなくもほっこりした。(編集部・野村昌二)

■書店員さんオススメの一冊

『「ふつうのおんなの子」のちから 子どもの本から学んだこと』(中村桂子著)は、本好きな生命科学者が児童文学のヒロインたちから「ふつうのおんなの子」の生きかたを取りだすなどした自伝的エッセーだ。オリオン書房ルミネ立川店の田邊水玲さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

 最初に誤解があれば解きたいのだが、本書は女性の生き方論ではないということ。「おんなの子」とひらがなにしたのも、女と漢字にすると「現代社会の価値観が入っている気がする」からだそう。

 著者は、現代科学が生きものを機械的に見る傾向にあったことへの疑問から「生命誌」という分野の研究をされた理学博士である。自身の戦争体験や『赤毛のアン』『若草物語』『風の谷のナウシカ』などの主人公の生きざまから、身近にあふれる多くの幸福に気づかせてくれる。現代社会の本質をとらえた見方に触れ、今の自分に何ができるだろうか、などと考えさせられた。

 そして改めて痛感したこともある。やはり物語は人を豊かにできるということ。疑似体験だとしても、後の人生のスパイスになり得るのである。微力ながら本に携わる者として、少し誇らしく思った。

AERA 2018年9月24日号

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