ただし監督は活動家でなく、あくまでもアーティスト。美しくシュールな映像も、過激な暴力なしに戦争の無益を描く手腕も「レバノン」に通じる。

「私の映画は観客にとってある種の“体験”になってほしい。タルコフスキー、黒澤明やカフカ、村上春樹など多くの作家に影響を受けました。撮影中は没頭しすぎて『この瞬間のために、世界が歩みを止めてくれている!』と感じることすらあるんです」

◎「運命は踊る」
9月29日(土)から公開。残酷な誤報が家族の運命を翻弄するミステリー。イスラエルで論争も巻き起こした。

■もう1本 おすすめDVD「オオカミは嘘をつく」

 イスラエル映画というと「戦場でワルツを」(2008年)など戦争や兵役を描くイメージがある。だがサミュエル・マオズ監督によると実はそんなことはなく、ほとんどが娯楽作。家族ものやジャンル映画(ホラー、アクションなど)が多いのだそう。本作はイスラエルの若手監督2人(アハロン・ケシャレス、ナヴォット・パプシャド)が「ハリウッドのジャンル映画を目指した」作品。タランティーノ監督が絶賛している。

 イスラエルの森で少女が無残な死体で発見される。容疑者として浮上したのは、おとなしそうな教師。刑事は彼を暴力で自白させようとするがうまくいかない。だがもう一人、教師を狙う人物がいた。

 少女の父親が復讐のために行動する……という展開のサスペンスで、残忍な描写も筋金入り。そして背景には、やはりイスラエル社会の事情がある。登場人物がみな、いざというときに「武力行使」できる状況が、映画のキモでもあるのだ。皆兵制度の国ならではの闇を感じる一本だ。

◎「オオカミは嘘をつく」
発売元:ショウゲート
販売元:アルバトロス
価格3800円+税/DVD発売中

(ライター・中村千晶)

AERA 2018年9月17日号